宇宙混沌
Eyecatch

影の世界 [2/9]

影の世界

[]って~。でも良かった、割れてない」
 もろはは拾った紅を丁重に懐の奥へ仕舞った。
「竹千代、気付かず行っちゃったのかな」
 空を見上げ、気配が無いことに落胆する。
(驚いて叫び声も出なかったからな)
 気付いてくれるかもしれないので、一応呼んでみる。
「お~い、竹千代~」
「曲者だ!」
「捕らえよ!」
「へ?」
 もろはの声に反応したのは、狸平の家来と思われる狸妖怪達だった。
「若君様の所へ連れて行け!」
「えっ、ちょっ」
 菊之助の臣下なら乱暴はできない。それに、菊之助ならすぐに解放するように言ってくれる。もろはは、連れて行かれた方が竹千代との合流も楽だと思い、大人しく従った。
「騒がしい。何事ぞ」
「ハッ。城の近くにて武装した女を捕らえました」
「ほう」
 城の中の、当主が謁見する部屋に連れて行かれる。奥に座っていたのは、見慣れない、人間の形をした男だった。
「名は何と申す」
 そしてその男は、いつもより少し低いながらも、よく聴き慣れた声でそう訪ねた。
「もろは……」
(??? 菊之助は? ていうか、こいつ……)
 状況が飲み込めないまま、素直に答える。男はほくろのある口元を歪めた。
「『もろは』。最近俺を付け狙っていると噂の賞金稼ぎではないか」
「……誰が誰を狙ってるって?」
「惚けるな。もろは[おまえ]が、この狸平の当主竹千代を、に決まっているんだぞ」
「は? アタシが竹千代を狙う訳ねーだろ」
「これ! 竹千代様になんという態度!」
「顔はやめてやれ。一応[おなご]だ」
 もろはの頬を打とうとした家臣を、竹千代と呼ばれた当主が制止する。
「だがそれ以外は構わん。新しい器具も使って良いぞ。だから必ず吐かせろ、このもろはという殺し屋が、一体誰の差し金で遣わされたのかをな」

闇背負ってるイケメンに目が無い。