宇宙混沌
Eyecatch

第2章:あなたはだあれ [3/5]

「お前妖術の見込みないんだぞ」
「うるせえっ! 竹千代が教えるの下手なんじゃねえの!?」
 何度目かに共に仕事をした帰り道。相変わらず首は竹千代が骨にしていた。竹千代が居ないときは、諦めて生首のまま持って帰ったり、角や爪だけ持って帰ったりと様々だ。
「首か頭蓋骨じゃないと全額貰えないなんて……」
「当たり前だ。指一本腕一本落とされたくらいじゃ、妖怪はすぐに回復するんだぞ。確実に死んだと判る物じゃないとな」
「解ってるよ」
 不貞腐れたもろはを見ると、髪飾りに落ち葉が引っかかっていた。
「おい、止まれ」
「?」
 驚きつつも言われた通りもろはは歩みを止める。竹千代は指で葉を摘んで、もろはに見せてから捨てた。
「ありがと」
 竹千代は黙って踵を返そうとして、何かに気付いた。
「竹千代?」
「しっ」
 もろはの肩を押して下がらせる。竹千代はゆっくりと道の脇の茂みに近付いた。
(なんだ? 結界か?)
 そこに見えない何かがある。手を出すべきか、気付かなかった振りをして立ち去るべきか。後者は駄目だ、思いっきり気付いた動きをしてしまった。
(……その時はその時なんだぞ!)
 もろはも居るし大丈夫だ。そんな根拠の無い楽観的見通しで、竹千代は刀を抜くと結界に切りかかった。妖力を切っ先に込め、術を破る。
「わわっ」
 姿を現したのは、子狸の時の竹千代くらいの大きさの、緑色の小妖怪だった。立派な着物を着ている。
「なんだこいつ?」
「お前の知り合いじゃないんだぞ?」
 竹千代は警戒を緩めない。小妖怪がずっともろはにその武器を向けているからだ。
「知らねえ」
「じゃあ何者なんだぞ」
「わっ、儂は……ただの通りすがりじゃ!」
「通りすがりにしては、随分長く俺達をつけていたんだぞ?」
 竹千代が刀を振り、妖力を飛散させた。それは道なりに長く続く結界の残り滓にぶつかって、霧散する。
もろは[こいつ]が目当てじゃないなら、俺が狙いか?」
 竹千代は腰を落として臨戦の構えを取る。
(こうやってると格好良いんだよなあ)
 もろははその背を見ながら、先程の仕事で敵に想定外の反撃をされ、驚いて戦線離脱した竹千代の姿を思い出す。
(根が臆病なくせに無理するんだから)
「ちっ、違うわい! 儂はお前が誰なのかも知らん! そして儂は、決して怪しいものではない!」
「怪しい〜」
 もろはが呟くと、小妖怪は黙り込む。とにかく、戦う意思は無さそうだ。
「本当に、俺が狙いでは無いのだな?」
「そうじゃ」
「……なら良い」
 竹千代はもろはに駆け寄ると、そのまま細い手首を掴んでその場を去った。
 残された邪見は溜息を吐き、人頭杖を下ろす。
(ヤレヤレ、あの狸、儂の結界を嗅ぎ付けるとは。一体何処の何者なんじゃ)
 狙いは自分ではないのか、と妙に念を押していた。命を狙われるような、狸妖怪の子供……。
「……もしや、御家騒動があったという、あの!」
(道理で狸にしては強いと思ったわい。まあそういうことなら、犬夜叉も娘の相手に不満は無かろうて)

 一方その頃、犬の大将の墓場では。
「キャー! 犬夜叉、今の見た? もろはってば格好良い恋人居るのねえ〜」
「別に恋仲じゃねえだろ。一緒に妖怪退治してるだけに見えるぜ」
 まさかまだ一度も言葉を交わしたことのない娘に、もう相手が居るなんて。犬夜叉にはその現実が耐えられない。
「そうかもしれないけど、多分もろははあの子のこと好きよ、絶対! 手握られて赤くなってたもの!」
「へいへいそうですか」
 夫婦の温度差のある会話は続く。その答え合わせには、まだ数年の月日が必要だった。

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