眠る恋人を抱きしめて [2/3]
二日後。
「んも~父上、帰ってくるならそう言ってよね!」
急に父上と邪見が帰ってきて、また食糧が足りなくなった。今日はどっさり採って帰ってやる。
山道をずんずん進むと、また紅色が見えた。
「よう、とわ」
今度は人間の姿の竹千代が、右腕に賞金首の骨、左腕に眠っているもろはを抱えて木に凭れかかっていた。
「あ……」
もろはの唇には紅。
「不甲斐ない。また使わせてしまったんだぞ」
「竹千代の所為じゃないよ」
「全てがそうではなくとも、俺の力不足は否めないんだぞ」
竹千代はもろはを抱いた腕に力を込める。
「独り立ちなんて、まだ……」
竹千代は言いかけたが、言葉を切る。
「それよりとわ、帰る時に手伝ってくれないか? もろはを背負うと、首をしょっちゅう落としてしまうんだぞ」
なんとか村のすぐ手前までは来たが、流石に骨も心も折れたらしい。
「良いよ。私が首運んであげるよ」
「かたじけない。礼は必ず」
「別に良いって」
山菜採りを終え、竹千代の元に戻る。二人で首ともろはを、もろはの家まで運んだ。
「この子また紅を使ったの!?」
もろはを受け取りながら、かごめさんが強い口調で漏らす。
「申し訳ありません。俺がついていながら……」
「ああ、ごめん。竹千代君を責めたわけじゃないのよ。もろはがもっと強ければね」
「十分強いんだぞ」
「戦いじゃなくて心がよ」
「お、どうしたんだ?」
犬夜叉さんが帰って来た。私達は挨拶をして、入れ替わりに帰ろうとする。
「竹千代」
「はい?」
犬夜叉さんに呼び止められて、竹千代は振り返った。
「……いや、気を付けろよ」
「? はい」
私は竹千代を村の端まで見送る。
「助かったんだぞ」
「どういたしまして。ところでさ……」
「何だ?」
「あんな無防備に寝てるもろはに、何もしてないわけ?」
「なっ……! 俺はそんなに見境の無い男だと思われているのか!?」
「いや、ごめん。そんなつもりじゃなかった。でも竹千代ももろはのこと好きなんでしょ?」
傍から見ると分かりづらいけど、本当は竹千代、もろはにすごく優しいじゃん。
「とわの居た国では、好きなら勝手に何をしても良かったのか?」
「うーん、そういうわけじゃないけど、本人同士の合意があれば。もろはが竹千代のこと好きなのは、竹千代も解ってるでしょ?」
「……俺はもろはの合意も取ってなければ、犬夜叉様達のお許しも得ていない」
「そっか」
深入りはやめた。家を重んじる社会のトップに居た事もある竹千代と、令和育ちの私じゃ、価値観を一致させるのは難しい。
「私が言うのも変かもしれないけど、二人に悔いが無いようにね」
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Written by 星神智慧