宇宙混沌
Eyecatch

眠る恋人を抱きしめて [1/3]

 伊予から帰ってきて数日後。
「とわ~。山菜採ってきて~」
「はい母上」
 戦国時代の暮らしは、何でも自分でやらなきゃ始まらない。私は母上から籠を受け取り、近くの山へ向かおうとした。
「おいらも行きましょうか?」
 海から遠いので、こっちに居る間はうちに居候している理玖が尋ねる。
「理玖さんはこっち手伝って~」
「わかりやした」
 母上に呼ばれた理玖と別れ、今度こそ山へ。
 今日は天気が良い。やること終わったら、ちょっと日光浴でもしてから帰ろうかな。
「あれ?」
 歩いていると、森の木々の中に紅色を見付けた。
「もろはじゃ……」
 近寄って気付く。もろはは眠っている竹千代を、赤ちゃんのように抱えていた。声のトーンを落として尋ねる。
「竹千代どうしたの? 具合悪いの?」
 もろはは首を横に振った。
「夜通し飛んで、此処で力尽きただけ」
 話によると、二人で遠くまで仕事に行き、帰りに笠の上でもろはが寝てしまったので、竹千代が起こさないように飛び続けたとのこと。
「自分も眠いならアタシのこと起こして休めば良いのにさ」
「起こしたくなかったんだよ、きっと。もろはだってそうでしょ?」
 村まではあと少し。賞金首と、子狸の姿の竹千代くらい、もろはだって運んで帰れる筈なのに。それでも竹千代が目覚めるまで帰らないつもりなんだろう。
「アタシは……それは半分」
 ああ、そっか。もう半分は、もろはは竹千代と二人で居たいのだと気付いて、私はさり気なくこの場を離れる理由を探し始める。
 もろはが竹千代の尻尾を優しく揉むと、竹千代は小さく呻いて、口を開いた。
「ははうえ……」
 もろははその寝言に、眉を下げる。
「竹千代にさ、お前のお袋どんなのって訊いたら、物心つく前に死んだから何も覚えてないって言うんだ。夢の中で会えてたら良いな」
 そう言うもろはの姿は、まるで本当に我が子を慈しむ母親のよう。
「いつも寝言でお母さんの事を?」
「他の家族や家来のことも言うよ。家来のことは、前は訊いても誤魔化されたな。ただ母親だけは本当に覚えてないらしい」
 言ってもろはは竹千代の耳に頬を寄せる。
「竹千代の言うことも解るよ。アタシのお袋はまだ生きてるんだもん。親孝行してやった方が良いのは……」
 もろはの言葉は尻すぼみになる。もろはと竹千代が、もろはが両親と竹千代のどちらと暮らすかで揉めたのは一度や二度ではない。今のところ、竹千代の勧める通り、もろはは両親と共に暮らしている。もろはとしては、それより前に竹千代とした約束を守りたいみたいだけど。
 私はしゃがんで、もろはと目の高さを合わせた。
「どっちか諦めることなんてないんじゃないかなぁ」
 だって竹千代は、もろはと暮らしたくなくて色々言ってるわけじゃないし。
「え?」
「例えば、竹千代が婿入りしてもろはの家に引っ越せば良いんじゃない? そうしたら両親とも竹千代とも一緒に暮らせるじゃん」
「……親父やお袋が何て言うかなあ」
「それは、本人達に言ってみなきゃわからないよ」
 言って私は立ち上がる。思案顔のもろはを残し、山菜採りへと戻った。
 それにしても気持ち良さそうに寝ていた。やっぱり私も、ちょっと昼寝してから帰ろっと。

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