ウェディングドレス [1/4]
「なんでエアコンつけないの~」
「電気代節約だぞ」
「竹千代は寒くないのかよ~」
「寒いのも暑いのも、結構平気だな」
「お前病弱だったって絶対嘘だろ」
「寒いなら布団被ってろ」
竹千代は勉強する手を止めずに、適当にもろはをあしらった。もろはは竹千代の着物の一つを借りて素肌の上に重ねているだけなので、堪らず布団の中に潜る。
「竹千代はいつ寝るの!」
「日付変わるくらいに」
「そんな夜更かししてんの?」
「どうせ一限からは行かないし」
「不良だ~」
「家に連絡も入れずに、男の家に転がり込んでる方が不良だぞ」
駄目だ、この調子じゃ進まない。竹千代は諦めて、参考書を閉じた。
「……寝るの?」
布団を捲ろうとした竹千代に、もろはは怯えた声を出す。
「お前が居たら勉強できないんだぞ」
竹千代は構わず足を突っ込む。もろはの隣に横たわった。
(ゴム、届くよな?)
もろはが風呂に入っている間に枕元に置いておいた、コンドームの位置を確認する。
「寝るなら電気消して」
「はいはいお姫様」
竹千代はその隣に置いてあったリモコンを取った。元々、紐で引っ張るタイプの電灯が付いていたらしいが、引っ越しの際に母がリモコン式の物に替えてくれた。理由はわからないが、便利なのでありがたい。
暗くなると、互いの吐息と衣擦れがやけに耳を刺激する。耐えかねたのは竹千代の方だ。
「もろはぁ」
「何」
「お前あの時なんで家出してたんだ?」
あの時、とは二人が出会った時のことだろう。
「……おじさんと菖蒲ちゃんの子供が生まれて」
「そんな日に家出してやるなよ」
「反省してる」
不貞腐れた。顔が見えなくてももろはの様子はわかりやすい。竹千代は笑う。
「それだけ歳離れてると、血が繋がってなくても可愛いんじゃないか? そんなに離れてなくても可愛いけど」
「竹千代子供好きなの?」
「嫌いじゃないぞ」
「大人になったら子供欲しい?」
「一人か二人は」
「今から練習しとく?」
竹千代はすぐには答えられなかった。
(さっき怖がってたのもろはなんだぞ~)
無論、もろはが嫌がるなら布団の外で凍えてでも我慢する覚悟だった。竹千代はもろはを失いたくなかった。だって竹千代には信頼できる人も、愛してくれる人も、もろは以外に居ないと思っていたから。
「~~~もろはは馬鹿なんだぞ! 折角人が気を遣ってるってのに!」
膨らむ劣情に気付いて、竹千代は焦る。
「急に怒ってなんなんだよ! アタシだって竹千代が我慢しなくていいようにって――」
「お前の為に我慢してるんだが!?」
半ば怒鳴るように言った時、竹千代の腹の上を何かが弄った。もろはが身を寄せ、頭を竹千代の肩に乗せる。
「初めてが喧嘩しながらとかやだ」
(かっ、可愛い~~)
竹千代は小さい子に弱い。甘えられたりねだられたりするのにもめっぽう弱い。そもそも「可愛いな」と思ってチラチラ見ていたからもろはに人がぶつかったのに気付いたのだし、助けてやろうという気になったのだ。助けてみたら予想以上の馬鹿だったが!
「もろはのがヤル気満々なんだぞ……」
「するつもりでゴム買ったんじゃねえのかよ」
「だからこれは万が一の時の為だって」
「じゃあ今がその万が一!」
(子供か。いや、子供だったな……)
それでも十四歳の体はその行為に耐えうる。小柄とはいえ、密着したもろははちゃんと柔らかい肉で覆われていて、温まった体からは魅惑的な匂いがした。
(もう順番間違えられないんだぞ……)
竹千代はしがみつかれていない方の手で、もろはの顔を探る。耳を触り、顎をなぞって、唇を撫でた。
「今日帰りたくないのは?」
「……寂しいから」
「俺と居ると寂しくないのか?」
「うん」
「変な奴」
(俺もだけど)
家には家族が待っている。人数だけで言えば帰った方が多いのに。
二人は互いの隣にしか居場所を見つけられていない。
「変ってなん……」
もろはの言葉は尻切れトンボ。竹千代が寝返りを打って、その唇を食べてしまったから。
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