宇宙混沌
Eyecatch

第5章:流浪の民 [4/5]

忘れないように

 茎には小さな円が彫られていた。
「満月……」
 竹千代は呟いて、刀を置くと顔を覆った。
「思い出した」
 満月の夜、その袖を血で濡らした事を。その時に使ったのも、確かこの刀だ。
「そっか」
 アタシは隣から竹千代を抱き締める。
「こんな罪人を好きでいてくれるのか?」
「何言ってんだよ。お前だって殺されかけたんだし、お前の親父は殺されたんだぜ? 正当な仇討ちだ仇討ち」
「俺の咎は将監を殺した事にあるんじゃないぞ。怒りに任せて、話も聞かずに私刑に処したことだ」
「でも、将監がやったって自白はさせたんだろ?」
「そうだけど。将監を衝き動かした理由がある筈なんだぞ。俺は事情聴取も菊之助に任せて、その結果も[ろく]に聞かなかった」
「んなもん私利私欲だろ」
「どうだろうな」
 瑠璃紺の目がアタシを見る。
「やはり俺は、自分を否定する言葉を聞きたくなかっただけなんだぞ。これは、そんな俺の過ちを忘れない為の物だ」
 竹千代は刀の柄を付け直す。
「お前の事も忘れないようにしないとな」
 アタシが年取って死んだ後も、竹千代は終わりのない旅路を歩んでいく。竹千代は純血の妖怪だから。
「こうやって物と記憶を結びつければ、思い出しやすいというのが判ったんだぞ。あの紅の器でも取っておいてくれるか?」
「アタシが持ってる物は全部竹千代が好きにして良いよ」
 死んだらアタシには無用なんだし、という意味で言ったのに、竹千代は都合良く解釈する。
「〆込み千鳥とか、やったことのない手して良いか?」
「アタシの体も使う気満々じゃねえか。良いけど」
 口が寄せられる。竹千代の手が肩に乗せられた。始めてしまえば機を逃すので、唇を離して問う。
「思い出さない方が良かったか?」
「なんで?」
「そりゃ……嫌な思い出だって沢山あるだろ?」
 酒に溺れて忘れたがるくらいにはさ。
 竹千代は珍しく困り顔で言った。
「もろはは馬鹿なんだぞ。人の話全然聞いてない」
「ハァ?」
「俺最初から『ちゃんと思い出す』って言ってたんだぞ」
 竹千代の手に力が込められる。
「それより前の俺も、忘れてはいけない事だと忘れていて、馬鹿だったけどな」

Written by