宇宙混沌
Eyecatch

第5章:流浪の民 [3/5]

竹千代の夢

 俺はチビ狸の姿になってもろはの膝の上に居た。理玖様や獣兵衛様に「嫁にくらいちゃんと甘えろ」と言われたのを思い出し、今がそうすべき時とはわかったものの、甘え方がこれしか思い付かなかった。
「急に抱いてくれって言うからびっくりしたじゃねえか。こっちかよ」
「お前本当にまぐわうの好きだな……俺ちょっと心配なんだぞ」
「竹千代の言い方が紛らわしいんだよ!」
「言葉通りの意味に取らないもろはが悪い」
 言い返せなかったもろはに、強く抱き締められて息が詰まった。将監に受けた呪いを思い出す。同じ苦しみであるなら、好いた女に殺される方が良いな。
「おいおい、ちょっとは抵抗しろよ」
 もろはは手を緩め、顔を俺の頭に埋める。
「あ~やめろくすぐったい!」
「お前本当に耳弱いな」
「言っとくが今日はしないからな! その為に子狸の姿なんだぞ!」
「へいへい」
 もろはは顔を上げると、言葉を溢す。
「この姿だと赤ん坊抱いてるみたいだ。竹千代との子供はどんな姿で生まれるんだろうな?」
「さあな」
 俺はもろはの腕に頭を乗せた。傾いた俺の頭からも、疑問が溢れる。
「もろはは俺のどこが好きなんだぞ?」
「えっ」
「俺はもう何も持っていないのに」
「何言ってんだよ。化け殺しのもろは様っていう強~い嫁さんが居るだろ?」
「戯け。お前は俺の持ち物じゃないんだぞ」
「…………」
「なんでそこでちょっと傷付くんだぞ」
「いや、その……アタシは竹千代に命令されるのそんなに嫌じゃないっていうか……」
「は~そういう願望が……」
[ちげ]えよ! 竹千代のキビキビ物事決めるとこが好きって意味!」
「……そうか」
 俺はもろはから降りる。人型に戻って、妻の目を見た。もろはは照れて、顔を背ける。
「それにさ。お前、狸平の当主よりも、もっとでかい奴になるって言っただろ」
「嘘も方便ってな。ああでも言わないと、菊之助は俺を引き留めたんだぞ。それがどうかしたか?」
「そのでっかい夢をさ、叶える竹千代の事は見てみたいし、それを追ってる竹千代の姿は好きだよ。……って言おうとしたのに嘘だったのかよ」
「……俺、お前に夢の話したことあるか?」
 そんなものは、生まれた時から持つことを許されていなかった。若君であった時も、身を隠していた時も。
「してない。だから知らない」
「知らないのによく好きとか言えるな。『奈落を超える極悪妖怪になりたい』とかだったらどうするんだぞ」
「竹千代はそんなこと願わねえよ」
 もろはは笑う。俺を信じてくれている。
「じゃあ本当にしてやるんだぞ。俺の夢はな……」
 お前とたくさん家族を作って、田舎でのんびり暮らすことだぞ。
 今考えた内容を耳打ちすると、もろはは真っ赤になって俺の腕を叩いた。
「人型に戻ったの、やっぱりしたくなったからだろ!」
「バレたか」
「つーかそれ別にでっかくねえだろ!」
「『若君』にとっては、狸じゃないお前を娶るのだって不可能に近いんだぞ。ああ、あと子供の数は拘らないんだぞ、授かりものだし」
 もろはが傍に居てくれたら、それで良い。
 もろはを押し倒す。その拍子に、懐から短刀が滑り落ちそうになった。
「危な……」
 その柄を手にした時、何かが走る。
「竹千代?」
 俺はもろはの上から退いて、柄の紐を解き始めた。
「何してんの?」
「この刀だ!」
 俺は手を止めずに言う。
「見たら思い出せるようにした。[なかご]に何か彫ったのを思い出したんだぞ!」

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