宇宙混沌
Eyecatch

第5章:流浪の民 [1/5]

思い出した

「本当に食べるのか? 豆腐」
「俺が豆腐を食べるのがそんなに変か?」
 アタシはあれ? と思った。口調が少し戻ってる。となると、出すのはますます怖いな。
「そんなに食べたいなら……。でもまずはアタシが毒見」
「ああ」
 恐る恐る、隠していた器を出す。竹千代は平然としていたが、豆腐よりも気にかかることがあったらしい。
「ところで、何故理玖様まで俺の部屋に?」
「美味ければおいらも一口頂戴したく」
 理玖は帰ってきてからずっと、アタシ達の様子を心配そうに見ている。今は部屋の隅で、腕を組んで背を壁に預けていた。やっぱり道中も何か少し思い出したんだろう。
「いただきます」
 箸を豆腐に入れる。少し切って持ち上げ、口に入れる直前に竹千代が叫んだ。
「食べるな!」
 蒼白な顔が必死に訴える。
「食べたらお前は殺される!」
「呪いの事を思い出したか?」
 理玖が壁から背を離した。
「呪い?」
「違うのか」
 アタシは一旦箸を置き、理玖に目配せした。多分、竹千代の毒見役が冤罪で殺された事だけを思い出したのだろう。頭を抱えた竹千代を宥める。
「大丈夫だ竹千代。これには呪いはかかってないし、アタシを処刑する奴も居ねえよ」
「もろは」
 竹千代が顔を上げて名を呼ぶ。
「俺は忘れてはいけない事をまだ何か忘れている」
「忘れちゃいけない事どころかほとんど全部忘れてるだろ」
「そうじゃない! 忘れないように……思い出せるようにした筈なんだぞ!」
「まあ落ち着け竹千代」
 アタシに掴みかかった竹千代を理玖が止める。
「二人共何か聞いてないのか?」
「アタシは何も……」
「おいらもだ」
 竹千代は顔を覆って俯く。竹千代が次に動くまで、アタシと理玖はひたすら待った。やがてこう言う。
「豆腐はせつなにやってくれ。好きだって言ってたんだぞ」
「思い出したのか!?」
「思い出す前に一口食いたかったんだぞ」
 安全だと判っていても、呪いで受けた苦しみを思い出してしまえば、口にはできないか。
「……理玖様に不遜な態度を取ったことお詫びします」
「やめろって。とにかく良かった、おいらのことも思い出してくれて」
 豆腐はおいらが持って行く、と理玖は部屋を出た。アタシは俯いたままの竹千代に尋ねる。
「アタシのことは?」
「思い出したぞ」
「本当に?」
「今までに言った好きなところ全部言えば良いか?」
「いや、いいよ」
 アタシは竹千代の隣に移動し、ぎゅっと抱き締める。
せつなに豆腐やるのはやめれば良かったな」
「なんで?」
「あいつもろはの顔掴んで、地面に擦り付けて岩にぶつけたことあったぞ」
「ああ、暴走した時ね。……なんでそんな細けーことから思い出すんだ……」
「俺には細かいことじゃないんだぞ。わざとじゃないから許してやってるだけだぞ」
「そーですか」
 ちゃんと愛されていることを感じた。竹千代が顔から手を離した隙に、その頬に口付ける。
「で、何を思い出してないんだ?」
「解れば苦労しないんだぞ」
「伊予に来た経緯は思い出したか?」
「お前が俺も来るだろって」
「合ってる。んー、仲間の名前は翡翠が教えちゃったしな……」
 忘れないように、思い出せるようにした? そんな大事なことで、まだ思い出したか確認できてないことって……。
「……いやー。やっぱりもう全部思い出したんじゃね?」
「そうかのう」
 それって、将監を殺したことじゃないのか?

Written by