宇宙混沌
Eyecatch

夜伽 [3/4]

「た、たー……狸」
「それ四回目だぜ……」
「えーもう思いつかないんだぞ……」
 しりとりでは半刻ほど潰せた。まだまだ夜は明けない。
「というか眠い……」
「ヤダヤダヤダ、寝るな竹千代。アタシ一人でこいつらの相手したくない」
 もろはは竹千代の膝の上に乗り、その整った顔をぺちぺちと叩く。
「お前も可愛い顔しとるな。怪我してるけど」
「いきなり何だよ。褒めても何も出ねえぞ」
「誑かしてみようかと思って」
(駄目だ、竹千代の限界が来てる)
 支離滅裂な言動が増えてきた。辛うじて結界も変化も続いているが、もういつ切れてもおかしくない。
(何か衝撃でも与えて目を覚まさせるしかないな)
 さてどうする。殴るか? いや、それで気絶させたりしたら意味が無い。物理ではなく精神的な衝撃でなければ。
「……じゃあ、誑かされてみようかな……」
 もろはは袈裟を肩にかけた。それで周りからは見えないようにしながら着物の襟元を緩め、晒布で潰している胸をチラ見せする。
(恥ずかしいけどこんなのしか思い浮かばねえ……!)
 その効果は絶大だった。竹千代はもろはの胸元を凝視した後、ぽすん、とその肩に顔を埋める。
「目が冴えた」
「良かった」
「悪かったんだぞ肌晒させて」
「まあ別に減るもんじゃなし」
 竹千代が顔を上げて、着物を整えてやっていたところ、その言葉に手を止める。
「減ると……思うけど……」
「何が?」
「んん……お前の心……?」
(もしかしてもろは、あんまり夜伽の知識が無いんだぞ?)
 もう嫁入りできる歳だと思うのだが、と竹千代は心配になる。それで、もろはが自分の膝の上に乗り、更に妖力の塊の袈裟に包まれている事を再認識した。
(ああ~でなきゃこんな無防備にはならないんだぞ……)
 その気になれば手籠めにできるではないか、というか、既に竹千代の腕の中に捕らわれているようなものではないか。額に手を当てて顔を逸らした竹千代に、もろはは首を傾げる。
「……お前が誑かしてるんだぞ?」
「何の話?」
 怪異はまだ周りを取り囲んでいる筈だが、ぞわりぞわりといった声はもう、竹千代の耳には届かなかった。竹千代は父に、人間は食わぬよう言われてきたが、女を食わぬようには教えられていない。ましてや女から寄ってきた場合に。
「もろは、」
「何?」
 このまま食べてしまいたい欲求には、なんとか耐えた。結界を張っていないといけないし、手を出して拒まれれば明日以降の旅路が辛くなる。竹千代は嘘をついた。
「重い」
「ああ、悪い」
 もろはは竹千代から降りる。あまり離れて術の結界の外にはみ出たくないので、ぴったりと竹千代の腕にくっつくように座った。
(あんまり状況変わってないんだぞ!)
「もろは~」
「今度は何」
「お前自分の身は自分で守るんだぞ」
「当たり前だろ。それどころかお前を守る為にこっち来たのに」
(そういう意味じゃないんだぞ)
「はいはいありがとう」
「なんだよその態度~」
 もろはは竹千代の頬を摘んで引っ張る。竹千代は文句も言わずに、ただ袈裟の上から腕を回して、もろはの腰を抱いて引き寄せた。
(まあ、こうしてれば眠る気なんて起こらないんだぞ)
 腕の中でもろはが身動ぎする感覚、すぐ傍で聞こえる息遣い。明らかに緊張している様子のもろはが面白い。
(やっぱり最初に声かける相手間違ったんだぞ……)
 もろはだったら成功していたかもしれないな、等と思いながら、竹千代は眠らないように取り留めもない話をし始めた。

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