宇宙混沌
Eyecatch

夜伽 [2/4]

「お前も人間の振りして泊めてもらえば良かったんだぞ」
「いやーどう見てもあの家に五人も泊まれないっしょ」
 竹千代ともろはは、近くの森の中で隣り合って寝転がり、木の葉の向こうに浮かぶ月を眺めていた。
「寒くないか?」
「ちょっと」
「ほれ」
 竹千代は袈裟を脱ぎ、もろはに被せる。
「この袈裟本物?」
「俺の妖力で作ってる物」
「すげー。触り心地とか区別つかねえよこれ」
「褒めても何も出ないぞ」
 竹千代は再び寝転がる。もろはは竹千代の方に寝返りを打った。
「改めて見ると良い面に化けるよな」
「だから、褒めても何も出ないんだぞ」
「褒め言葉くらい素直に受け取れよ。本当に上手くやれば女誑かすくらい訳ねえだろ。せつなに声掛けたのは相手が悪かったな」
 もろはは竹千代の前髪を指で掬い、まじまじとその造形を確かめる。
「なんか……あんまり近くで見るなだぞ……」
 竹千代の方は、至近距離の美少女にどぎまぎしてしまう。
「良いじゃん減るもんじゃなし。まあ、暗くてよく見えないけどさ」
 もろはは手を引っ込め、元の位置に戻る。
「どっちが先に寝る?」
「もろはが選んで良いぞ」
 竹千代だって解っている。この近辺に人食い妖怪が出る可能性くらい。竹千代は行李笠から短刀を出して、胸の上で握り締めた。
「じゃあ先に寝るけど、何かあったら無理せず叩き起こせよ。その為にアタシこっち選んだんだから」
「気遣い感謝だぞ」
 本当は、一人だったら木に登るか穴を掘るかして身を隠そうと思っていたので、竹千代としては大きなお世話感は若干したが、厚意を無下にはできまい。
 もろはは袈裟を被り直す。竹千代の妖力に、守られるような感じがした。
「おやすみ」
「おやすみ」

 それは丑三つ刻、そろそろもろはを起こして寝ずの番を代わってもらおうかと思っていた時だった。
「人間の臭い……」
 低い声が響く。竹千代は飛び起きると、すぐさま二人の周囲に目眩ましの幻術をかけた。
「……竹――」
「しっ!」
 目覚めて起き上がろうとしたもろはの胸に手を置いて、それを阻む。
 何ぞの時の為に、もろはの力は温存しておきたい。このまま気付かず素通りしてくれれば良いのだ。
「人間……」
「違う……」
「消えた……」
「狸も居た……」
「何処に行った……?」
 ぞわり、と体中の毛が逆立った気がした。四方八方から囲まれるように響く声に、流石のもろはも怯えて、乗せられた竹千代の腕を掴む。
「……奴等、招かれざれば踏み入れられぬようだぞ」
 竹千代はそのままもろはを引き起こす。
「妖怪というより祟りの類か? とにかく、俺が術を張っている中は安全なんだぞ。村もどの家も戸を締め切っていれば大丈夫だ。寝ないように見張っててくれ」
「おいおい、お前徹夜になるじゃねえか」
「仕方無いんだぞ」
 蠢く怪異の気配は消えそうにない。全体像が掴めないし、仮に本当に祟りの類なら手を出さない方が無難だ。もろはは渋々、竹千代の徹夜に付き合うことにした。

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