宇宙混沌
Eyecatch

夜伽 [1/4]

妖怪[バケモノ]だ!」
「キャー!」
「早く家の中へ!」
 堺へ向かう途中で立ち寄った、とある集落。理玖一行が村に足を踏み入れるなり、住人達は怯えてぴしゃり、と戸を閉めてしまった。
「化け物って……」
「竹千代のことだろうな」
 美人の双子二人が、仲間の中で唯一、人ならざる姿をしている子狸を振り返る。実際には彼女達だって半妖だが、普通の人間に見分けはつかない。
「よし、『寿里庵』とやらに化けてくれ」
「尻尾出ないように気を付けてね」
 双子が指示する。もう日が暮れそうで、この村で休めなければ野宿なのだ。
「都合良く使うんじゃないぞ」
 言いつつも、竹千代も状況は解っている。いくら小さく愛らしい姿をしていても、妖怪だというだけで嫌ったり怖がったりする人間が少なくないことも。
 竹千代が人間の姿に化ける。暫くすると、恐る恐るといった体で、一部の村人達が出てきた。理玖が比較的大きな家の住人に、泊めてもらえないか交渉する。
「さっきの狸が化けてるんじゃなかろうなあ?」
 増えた若い僧侶に、その家の主は胡乱な目を向ける。
「まさかそんな」
「あっ! 尻尾が出てる!」
「ええっ!?」
 その家の子供に指さされ、思わず皆が反応してしまった。
「やっぱり化けとるのだな。悪いが[アヤカシ]は村から出てってくれ」
「仕方ありやせんね」
「あんたらは良い。人間じゃろ?」
 踵を返した理玖を村人が引き留める。
(さて、姐さん達はどうされます?)
 視線だけで問う。実を言えば、一行に純粋な人間など一人も居ない。理玖としては、夜叉姫達にも屋根の下で休んでもらいたいところだが。
「じゃ、お前ら四人だけ泊まらせてもらえよ」
 最初に機転を利かせたのは、もろはだった。
「アタシは四半妖だからさ。竹千代と一緒にその辺で寝てるよ」
「えっ、ちょっと、もろは――」
「そうか。気を付けるんだぞ」
 とわの言葉をせつなが遮る。二人が出て行き、部屋に通してもらった後、せつなが小声で説明した。
「もろはが自分から名乗りを上げたことで、私達は疑われにくくなった。それに、一応客を護衛するのが仕事なのだから、理玖とりおんだけにするわけにもいかないし」
「前の街では置いてったじゃん!」
「あそこは栄えていたし安全だった。だが、この村では竹千代にさえこれだけ怯えているのだぞ。過去に妖怪による被害があったのかもしれない」
「だとすると、心配なのは竹千代だねえ」
 借りられる部屋は一つだ。できるだけ端の方に陣取った理玖が言った。
「……そこもとが大人しくしていればな。ただ竹千代が心配なのは同感だ、あいつはあまり戦いには向いていないようだからな。もろはは竹千代の用心棒を買って出た、というところだろう」
「なるほど。この借りは今度返さなくっちゃね」
「ああ」
(私はとわの用心棒といったところだが)
 せつなは理玖を睨めつける。
「そんな怖い顔しなさんなって。今夜は何もしやせんよ」
「今夜だけではなく未来永劫何もしないでほしいが」
「男と同室が嫌なのは解りますよ。ただあっしもりおんお嬢の前じゃあ……」
「ふん。確かにそうだな」
 せつなとわを振り返る。どことなく残念そうな顔をしていたので、ぱちんとその頬を軽く叩いておいた。
「えっ、なんで叩いた?」
「いや、つい……」
 誤魔化しかけて、やはり釘を刺しておくか、と思い直す。耳元で凄んだ。
「とわは理玖の反対側の壁だぞ」
「はは……やだなあ、私もりおんちゃんの前じゃ何もしないよ」
(だから、りおんが居なくても何もしないでほしいのだが)

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