第8話:この件は内密に、そして公に [4/4]
竹千代は三人を中に通す。座布団を出し、自分は椅子に座った。
「で、話って?」
「まだあんまり大きな声じゃ言えねえが、お前を万引き犯に仕立て上げた奴、狸穴会長だ」
もろはと竹千代が顔を見合わせる。状況を把握できていなさそうなとわに、もろはが簡単に過去の事件について説明した。
「そんな酷いこと……。でも、子供を陥れて、会長に何かメリットあるの?」
「あるんだぞ、それが」
竹千代は遺伝子鑑定結果を見せ、今度会長と母親が再婚すると教える。
「なるほどな。動機もバッチリか」
「しかし、理玖様の方はどうやって判ったんだぞ?」
「思い出したのさ」
理玖は竹千代と出会った日のことについて語った。
「――ってことで、アネさんの簪を狸穴が持ってるのを示せれば復讐できるぜ」
「上等だぜ! やるよな、竹千代?」
「一旦整理したいんだぞ」
竹千代はおにぎりを食べ終えると、床に型紙用の大きな紙を広げ、関係図と共に要点を書き記す。
「勘違いしないでほしいが、まず、俺は母さんの再婚に反対したいわけじゃない。次に、菊之助が真実を知らないなら、知らないままでいてほしい」
「んー、それどうなの?」
もろはが腕を組む。
「知るとしても俺の口からじゃなく、両親の口から告げられるべきだぞ。それから、狸平グループが傾くのも駄目だ」
「最後のは無茶だな。狸穴会長が犯罪に手を染めてたって公になれば、批判は避けられないぜ」
「解ってる。窃盗の件はやむを得ないんだぞ。でも不倫の件は絶対に表に出しちゃ駄目だ。菊之助が俺の父さんの子じゃないことや、父さんの死がそれに由来する自殺だって、証拠が無くても噂になる」
「社内不倫ってだけでも相当印象悪いもんね……」
とわが悲しげに呟く。理玖は頭を抱えた。もろはは腕を解く。
「わかった。竹千代が知られたくないって言うなら、そうしようぜ」
「おいら達のやるべきことは、上手いこと窃盗の罪だけを暴くってことか」
「はい。だからこの手紙は、またコートの中に戻すんだぞ」
「流石に捨てたりはしないんだ」
「何ぞのときに強請れる手段はあった方が良い」
「竹千代のそういうところ強かだよなー」
「話を戻そう。アネさんが失くした簪は、実はアネさんの手作りでさあ。一点物だからそれさえ出てくりゃあ、後はそれを使って強請るなりなんなり」
「もう捨ててるかもしれないぞ」
「そりゃあ無いだろう。アネさんは安物って言ったが、大粒のアコヤ真珠を使ってて、バラして売ってもそれなりの値段にはなる。売ってたら足がつくし、金にがめつい狸穴のことだ、そもそも勿体なくてまだ手元に置いてるだろうよ」
「あるとしたって、狸穴の家には乗り込めないんだぞ」
「菊之助君なら?」
「結局巻き込むのか……」
「必ずしも会長の手元にあるとは限らないんじゃないんですか?」
閃いたとわが割り込む。
「だって、竹千代さんに持たせて『泥棒だ!』って騒ぐのが目的だったんですよね。だったらその機会が訪れる度に自宅から運ぶより、竹千代さんの近くに保管しておいて、ササッとその場で忍び込ませる方がリスク少ない気がします」
もろはも納得する。
「確かに。万が一竹千代に持たせられなくても、例えば竹千代の家の何処かにあれば、まず疑われるのは狸平家の人間だもんな」
「ふむ。竹千代、狸穴はお前ん家の中は何処まで自由に入れるんだ?」
「鍵のかかってない部屋はだいたい。個人の寝室と書斎には鍵があるけど、不倫してたんなら、母さんの寝室や風呂場は行けるだろうな」
「その鍵を持ってるのは?」
「部屋の住人と、家政夫のタカマルさん、それから家主の母さん……母さんが全部持ってる。グルなら実質、どの部屋も入り放題だぞ」
「なるほどね。じゃあ、狸穴は入れるのに、竹千代達が入れない部屋。かつタカマルさんが念入りにチェックしない部屋。そういうのはあるか?」
「ある」
「「「どこ?」」」
「父さんの部屋……。タカマルさんもあそこで父さんが死んでるのを見てるから、長居はしたくないと思うんだぞ。そもそも誰も使ってないから掃除も頻繁にしなくていいし、絶好の隠し場所だ!」
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