「それじゃわかんない。なんで責めちゃいけないんだよ」
もろはが不貞腐れる。竹千代は弥勒が車に乗り込んだ音を聞き、手を顔から外した。
「俺だって我慢できなかった。もろはのこと」
万が一があったって責任が取れないと解っていたのに。
「だから俺が、母さんの我慢が足りなかったこと、責められるわけ無いだろ」
愛と呼べば何だって綺麗に見える。仮に母親の不倫の目的がお金だったとしても、ただ自分の寂しさを紛らわす為にもろはを傷付けた竹千代の行為と、何が違うんだ。
「避妊しなかったことは責めていいだろ」
「それはそうかも。なんか腹立ってきたぞ」
「そのまま怒りをぶつけてやれー!」
「いやそれはまずい。とにかく飯だ。今日まだ何も食べてないんだぞ。もろはも行くか?」
「うん」
近くのコンビニでおにぎりを買い、再びアパートに戻ってくると、家の前で理玖ととわが待っていた。
「既読つかねえから直接来ちまった」
「あれ? あっ、電池切れてる。心配かけてすみません」
「いや、無事で何より。それより大事な話があるんだ」
「中で飯食いながらで良いですか?」
「ああ」
「それよりなんでとわが居るんだよ」
もろはが胡乱な目を向ける。
「えーっと、なりゆき?」
「アタシ達には別れろとか言っといて」
「いやぁ、もろは達が真面目にお付き合いしてるならこっちも文句無いよ」
(だってなんだか、理玖さん危うかったんだもん)
『竹千代に好きなことをさせてやるには、おいらの持ってる情報が必要なんです』
『……はあ……』
『それに上手くいけば、アネさんの簪も取り返せるかもしれねえ。一刻も早く竹千代と相談したいんです』
その勢いが危うかった。この人はなんでも、思い込んだらまっすぐ突き進んで止まらないタイプなんじゃないかと思って。
『わかりました。でも、私も連れてってもらえませんか? 手伝えることがあれば協力します』
(あと、「アネさん」が理玖さんとどういう関係なのかも気になるしね)