宇宙混沌
Eyecatch

第8話:この件は内密に、そして公に [1/4]

「俺は……菊之助に知られたくない」
 竹千代の口から出たのは、もろはにとって意外かつ意味不明な言葉だった。
「は?」
「菊之助は多分、自分の父親が俺の父親と違うって知らない……。知ったら絶対悲しむ!」
「だからって、折角出てきた証拠を無駄にすんのかよ! ずっと菊之助の陰に追いやられて、二の次や腫れ物扱いだったんだろ? いいのかよ、これからもそれで!」
「まあまあ、落ち着いて」
 弥勒がもろはを宥める。
「お母様としては二人とも実の子なのですから、平等に接したい気持ちはあるのかもしれません。しかし、菊之助君の実父が生きているとなると、両親の力関係によっては菊之助君の方を――」
「無理に母さんのこと庇わなくて良いんだぞ」
「……そうですか。ま、結局のところ竹千代君がどうしたいかです」
「この手紙は見なかったことにする」
(そこまで言うか)
 弥勒は心の中で溜息を吐く。
(なら、こちらも言わせてもらおう)
「お母さんのことを庇わなくて良いと言うのなら、はっきり良いますがね。お金のためかもしれませんよ」
 七宝[たにん]に損害を与えている時点で、これはもう、狸平家だけの問題ではない。罪を明るみに出し、これ以上の被害を出さないようにせねば。
「その上お父さんを殺されたようなものじゃないですか」
「えっ、どういうこと?」
「んー、父さん、この通知書の発行日の二日後に自殺してるんだぞ」
「マジかよ、許せねえな」
「でもそんなこと言ったら、もろはだって最初は金のために俺に声かけたんだぞ」
「ええっ。売買春は犯罪ですよ?」
「誤解される発言やめろよな!」
「嘘じゃないんだぞ」
「電車賃借りただけだろ! とにかく、お前の母ちゃんは親父さんを裏切ったんだ。竹千代が責める権利はあるだろ?」
「無い」
 竹千代は顔を手で覆う。
「なんで?」
「無いものは無いんだぞ」
 その様子を見て、弥勒は立ち上がった。
「私はそろそろお暇します」
「えっ、このタイミングで?」
「教師ができることには限りがあるのですよ。しかし」
 玄関の戸の所で、弥勒は振り返る。
「子供は大人を頼って良いんです。先生じゃなくてもね」
 弥勒は外に出ると、旧友の番号をタップする。
「もしもし、七宝」
「なんじゃ弥勒。おら忙しいんじゃが」
「お前の商品を盗んだ真犯人、捕まえられるかもしれないぞ」
「……何か証拠が出てきたのか?」
「直接的な物ではないが、誰かが竹千代君を貶める動機となるものがね」
「つまり、まだはっきりはしとらんのじゃな」
「そこをクリアにするのは、私の職務範囲を越えていますねえ。住所や連絡先は個人情報保護的にまずいですから、竹千代君のバイト先を教えます。ふらっと寄った感を出して接触すれば良い」
「社長は暇じゃないんじゃが……」
 それでも七宝はその店の名をメモに書き留めた。
「そうそう、もう一つ」
 電話を切ろうとした時、弥勒が付け加えた。
「竹千代君の彼女、誰だと思います? かごめさんの娘さんですよ! いや~世間は狭いですね。父親そっくりですぐに判りました」
 電話が切れる。七宝は作業机を離れ、ロッカールームへ。自分のロッカーの中には、あの時竹千代が盗んだとされるストールが、畳まれて籠に入っていた。手に取って広げる。こだわって染めたレモンイエロー。
「この色ではない」
 竹千代が選ぶなら。

闇背負ってるイケメンに目が無い。