宇宙混沌
Eyecatch

第3章:二人は化け殺し [3/5]

「獣兵衛さーん、首獲って……あれ? 留守か」
 もろはは頭蓋骨を置いて座る。
(「好きではない」かあ……)
 嫌々自分に付き合ってくれていたのかと思うと、じわじわと心が削られる。
 思えば養父の鋼牙の元を離れたのも、そんな考えがこびりついて剥がれなくなったからだった。鋼牙は実の娘のようにもろはを可愛がってくれたが、鋼牙自身の子供ができると、もろはは疎外感を感じざるを得なくなった。
 鋼牙とは一滴も血が繋がっていないどころか、狼でも、生粋の妖怪でもない。そんな自分を育ててくれたのは、旧知の頼みだから仕方なく、なのではないかと。
 竹千代だって、こんな中途半端な自分を、同朋として認める筈がない。
(……別に気にすることないじゃん。アタシだってずっと屍屋に居るわけじゃないんだし)
 なのに竹千代に言われたことがとてつもなく寂しくて、もろはは膝を抱えてそこに顔を埋めた。
「もし」
 店先から声がかかった。慌ててもろはは顔を上げる。
「此処は賞金稼ぎの仲介屋でお間違いないですね?」
「ああ、はい。賞金首にしたい奴と、その罪状、懸ける賞金の額をお聞きします。手数料は賞金から差し引くので、そのつもりで」
 もろはも店番に慣れてきた。筆を取って、客の言うことを書き取っていく。
「民を苦しめ、また、これから更に苦しめようとしている男です。その名は竹千代」
「竹千代……」
 特別珍しい名ではないが、知人と同じ名だと良い気はしない。
「人相などを詳しく」
「齢十七。背は五尺五寸ほどの人型。髪は明るく短い栗毛。精悍な顔立ちで、目付きは鋭いですなあ」
「…………」
(これ、もしかして、アタシの知ってる竹千代なんじゃ……)
 今のところ全ての特徴が一致している。
「あの~、もっと『こいつのこと!』って判るような特徴ありません?」
「目の色は瑠璃紺で、口の左下にほくろが一つあります」
(竹千代だ)
 もろはの筆を握る手が震えだす。それを見て、依頼人は金の話に入った。
「報酬は百五十両お出しします」
「百五十両!?」
 もろはの借金より一桁大きい。それだけあれば数年、いや、十年以上遊んで暮らせる。
(なんでそんな大金が竹千代の首に懸かるんだよ!?)
「但し条件があります」
「条件?」
「是非とも貴女に[]っていただきたい」
「……獣兵衛さんや他の奴には、黙ってろってこと?」
「ええそうです。話が早い賞金稼ぎさんが居て助かりました」
「……断ったら、どうなる?」
「貴女の口を封じて、他の者に頼むだけです。賊にこの村ごと襲わせるのも良いですねえ」
「テメェ!」
 もろはは筆を投げ出して腰の刀に手を掛けたが、その刃が届く前に、相手は妖術で姿を消した。
「それじゃ、頼みましたよ」
 そんな台詞だけを残して。

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