第3章:二人は化け殺し [2/5]
「よし! なんかちょっとやり方違うけどできた!」
「おめでとうなんだぞ」
もろはが放った矢が、落とした首の額に刺さって、その肉だけを消滅させた。
「でも、妖力じゃなくて霊力で肉を溶かすとは」
竹千代は子狸の姿に戻って、興味深そうに呟く。
「アタシのお袋は、なんか凄い巫女だったらしいよ」
「だったらしいというか、そうだったんだぞ」
「お袋のこと知ってるの!?」
「直接顔を合わせたことはないんだぞ」
「そりゃそうか。お袋が居なくなったのって、竹千代がまだ五つかそこらの頃だもんな」
もろはは「よいしょ」と大きな頭蓋骨を持ち上げる。
「何はともあれ、一緒に仕事をするのもこれで最後なんだぞ」
「……別にこれからも一緒にしちゃいけないことないだろ?」
歩きながらもろはは竹千代の表情を見ようとしたが、足元に居るので骨が邪魔だ。
「一緒にしなきゃいけない理由も無いんだぞ。それに、お前は俺に手間賃払うより、全部自分の稼ぎにしてさっさと借金返した方が良いんじゃないのか?」
(そうすれば、理玖様は再び俺を四凶暗殺の刺客として認めざるを得ないんだぞ)
力が足りていない事は竹千代も承知の上で、まだそんな夢を見てしまう。狸平に忘れ去られた竹千代にとって、理玖が必要としてくれることが唯一の慰めだった。
「そりゃそうだけど。……竹千代、アタシと一緒に仕事するの、嫌いか?」
「好きではない」
それは実力の差から反射的に出た答えだった。竹千代の妖術も必要としないなら、もろはと一緒に仕事をしても竹千代が足を引っ張るだけだ。
「そっか……」
気落ちした声に、竹千代は慌ててもろはを見上げるも、彼女が抱えた頭蓋骨が邪魔で顔が見えない。
「いや、その、もちろん嫌いじゃないんだぞ? それからあくまで仕事の――」
「良いよ、言い訳しなくたって。お前いつもアタシに小言ばっかりだし、面倒見てくれるのだって獣兵衛さんに言われたからだろ」
言ってもろはは先に帰ってしまう。竹千代は歩を止めると、道端の岩に腰掛けた。
(なーんで言い訳なんかしたんだか)
別にもろはにどう思われたって構わない筈だ。もろはは借金を返せば自由の身、竹千代だって準備が整えば駿河に戻る。ほんの一時、一緒に仕事をしているだけの関係じゃないか。
(あ~~~でも今のはまずかった気がするんだぞ!)
一晩寝れば大抵のことは引きずらないもろはだが、竹千代はそうではない。自分自身のけじめの為に、きちんと謝って誤解を解かねば。
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Written by 星神智慧