第11話:戦いの終わり [4/4]
「見たか竹千代、今日の一面。どの新聞社も狸平グループ会長の不祥事で持ち切りだぜ」
「知ってる。だからこうやって、理玖様の家でマスコミ逃れをしてるんだぞ」
数日後、竹千代は理玖の家で世話になっていた。濡れ衣を着せられた悲劇の少年、とテレビ新聞雑誌の記者が、代わる代わる当事者である竹千代の家を訪ねてくる。落ち着いて通学することもままならない。
「この問題は?」
「つるかめ算を使ってみな」
だからこうして、中学受験を控えたりおんの家庭教師をしながら、騒動が落ち着くのを待っている。
「結局、再婚の話もなくなって、母さん達には悪いことしたな」
「いやぁ、まさか相手がこんな汚え手を使う奴だなんて知れたら、百年の恋も冷めちまうよ」
「解けました!」
「今日の宿題は終わりか?」
「はい! ありがとうございました」
りおんが部屋を出て行き、理玖は重たい話に移る。
「留学、しなくて良いのかよ」
「別に今じゃなくても良いんだぞ」
「遠距離恋愛が堪えられないって?」
「堪えられないのは俺じゃない。もろはなら、帰りの金も無いのにふらっと追いかけてきそうなんだぞ」
「ははぁ。なら、最初から一緒に連れて行く方が安心だな」
「そういうこと」
理玖は肩をすくめて、窓辺に寄る。外は寒そうだ。
「お前のその穏やかさが、おいらにゃ理解できねえよ」
確かに盗みの罪は暴いた。しかし、どう考えても不倫して竹千代の父親を死に追いやった方が罪が重いだろう。他人の理玖が憤る程には。
(でなきゃ、「不倫になるから」って恋心をずっと胸に秘めてたアネさんの犠牲は、何になるんだ)
「俺にとっては所詮、父さんも母さんや狸穴と大差無いんだぞ」
「というと?」
「俺にとって父親は、俺の心に傷を残した人でしかない」
断末魔がどんなものかなんて知らない方が良い。首を絞められる苦しみも。だって一度知ったら忘れることなんて出来ないのだから。
「あの人が俺に遺してくれたものなんて、遺産と名前くらいだぞ。俺は俺を今、大事にしてくれる人の方が大事だ」
「そうかい」
「それより、理玖様の方はどうなんだぞ? とわの親父さんはなんて?」
「『不健全なことは結婚可能年齢まで待て』って言われた」
「それだけ?」
「それだけ。話によると、あの人自身がすごい年の差夫婦らしくてさ。あとはずっと嫁さんの惚気聞かされてた」
「お勤めご苦労様でした」
竹千代は時計を見る。
「もろはを迎えに行ってきます。そのままバイト」
「そうかい」
理玖は竹千代を玄関まで見送る。道の向こうに遠ざかるシルエットは、もう着物を着ていなかった。
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