宇宙混沌
Eyecatch

第7話:消えた虹色真珠 [4/4]

「こちらです」
「理玖、大丈夫かい?」
「アネさん」
 先程の世話人に連れられて、姉の是露[ぜろ]が部屋に来た。姪のりおんと手を繋いでいる。
「俺はもう大丈夫です」
「そう。りおんも眠そうだし、私達だけ先に帰ろうか」
「タクシーお呼びしますよ」
「ありがとうございます、タカマルさん。お願いします」
 世話人が電話をかけに外へ。是露は長椅子の上の少年を見る。
「この子は?」
「狸平竹千代君です。地震の直後に倒れてしまって」
「持病かい? 可哀相に」
 ほとんど眠っている状態の竹千代の顔を、是露が覗き込む。それで理玖は気付いた。
「アネさん、今日なんか髪飾り付けてませんでした?」
 黒いドレスに映える、七色の真珠が付いたのを……。
「それが、いつの間にか落としてしまったみたいで。さっき人にぶつかられたから、その時に抜けたのかもね」
「探してもらいましょう」
「別に構わん。どうせ着色された安物だ」
 タカマルが戻ってくる。
「タクシー、十分程で着きますので。お手洗いは大丈夫ですか?」
「俺お借りしたいです」
 理玖は場所を聞き、トイレへ。途中の廊下の陰で、狸穴が誰かと話していた。
「竹千代は?」
「それが、地震の後に発作が起きかけたみたいで、以降別室に……」
「一人でか?」
「いえ、一緒に居た高校生くらいの子も休みたいとかで……」
「ぬう……アリバイありか……」
(何の話をしているんだ? アリバイ?)
 しかしゆっくり盗み聞きしている時間はない。手早く済ませて元の場所に戻って来たが、その時には狸穴の姿はもう無かった。

「そうか」
 話していて、唐突に理玖は解ってしまった。
(竹千代に窃盗の濡れ衣を着せたのは狸穴だ! アネさんの髪飾りの時は、竹千代にアリバイがあって失敗した。それで、何回目か知らないけど二年前に成功したんだ!)
「どうかしたんですか?」
 早く本人にこのことを伝えなければ。しかし、目の前のとわの声に、心が揺れる。
(折角おいらが選んだ服着てきてくれたんだぜ~? この千載一遇のデートチャンスを逃すのかよ~~~)
「いえ。てなわけで、おいらと竹千代は共に夢を追う者同士、励まし合いながらここまで来たってわけです」
「良い話ですね。でも、変だな。竹千代さん、あんなにセンス良いのに、跡継ぎじゃないなんて。自分のブランドを立ち上げたいってこと?」
「……とわさんは、やっぱり家業を継いだり、手伝ったりすべきだと思いますか?」
「え? 全然。私達もお父さんに何も言われてないし。それに、自分のやりたいこと貫き通す人の方がかっこいいと思う」
 躑躅色の目が笑う。
「立場や収入が不安定でも?」
「私は働いたことがないから偉そうなこと言えないけど、やりたいことができない人生って、意味あるのかな」
「……そうですね」
 理玖はお金を置いて立ち上がった。
「すみません、とわさん。今日はここでお暇させてください」
「良いですけど、どうしたんですか?」
「竹千代に好きなことをさせてやるには、おいらの持ってる情報が必要なんです」

闇背負ってるイケメンに目が無い。