宇宙混沌
Eyecatch

第7話:消えた虹色真珠 [2/4]

「なるほど、完全に腑に落ちました」
 菊之助は竹千代とは父親が違う――それを知った弥勒は靄が晴れてすっきりとした顔で言った。
「俺も。どうせ父親は狸穴会長だぞ」
「なんで?」
 もろはが首を傾げる。
「今度母さんと再婚するんだぞ」
「それもだけど、なんで腑に落ちてんの? そういう噂があったとか?」
「我々教師も、違和感は感じていたんですよ」
 弥勒は語る。何を言っても学校側の言い訳にしかならないが。
「私も中等部の先生から聞いただけなのですが、お母様がね、なんというか、こう……。竹千代君が虐待やネグレクトを受けている感じではなかったし、菊之助君が甘やかされているという感じでも無かったのですが……」
「全然わかんない」
「俺の進路を邪魔していた」
「そう、それです。普通、不登校の子の親御さんは、子供の学歴が中卒になるのを恐れるんですよ。『何処でも良いから、本人が行きたいと思う学校なら進ませてあげたい』と言うくらい」
「母さんは逆だった。『どうせ行かないのだから辞めさせる、外部受験もさせない』って」
「それで、三者面談で揉めて揉めて……。学校側の説得で、どうにかエスカレーター進学にはなりましたけどね。つまるところ、竹千代君が服飾業界に進むことを阻害していたんです」
「でもそれって普通じゃねえ? 子供が画家とか歌手とかになろうとしたら、とりあえず反対するだろ」
「普通なら、ね。しかし竹千代君の場合、家業を継ぐという意味があります。口だけでなく、ある程度の技術も既にありましたし」
「自分が苦労したからって理由なら、大して服に興味の無い菊之助に、跡を継がせようとしているのが意味不明なんだぞ」
「つまり、会長が自分の息子に継いでもらいたいからってことか」
 もろはもやっと理解する。
「でも、いくらなんでも高校行かせないってのはやりすぎじゃ……?」
「その通りなんですが、竹千代君は優秀ですからね。デザイナーになれなくても他の仕事、例えば経営等の手腕でのし上がってくる可能性が高い。長男ですから、周囲の期待も竹千代君に向かう方が多いでしょう」
「竹千代そんなにすごい奴なの?」
「成績はどの科目も、常に上位十パーセントに入ってますよね? 結構モテるんですよ」
 弥勒は前半は竹千代に、後半はもろはに言う。もろはが心配そうな目で竹千代を見上げた。
「知らなかった……」
「俺は母さんや先生と違って、浮気とかしないんだぞ」
「やだなあ、私も結婚してからはしてませんよ」
((結婚するまではしてたのか……))
 二人は呆れる。もろはは気を取り直して、もう一つ質問した。
「でもさあ、竹千代が不登校になったのって、万引きの濡れ衣着せられたからだろ? 会長達はそれをたまたま利用しただけなのか?」
「違うでしょうね」「違うだろうな」
 二人が同時に答える。
「おや、竹千代君も勘付きましたか」
「まあ、先生の言い方で。先生はどうやって気付いたんですか?」
「少々個人的な伝手がありましてね。さて、どうしますか?」
「…………」
「な、何を?」
 イマイチ状況を理解しきれていないもろはに、弥勒は改めて解説する。
「私達は、竹千代君に罪を擦り付けたのも、狸穴会長なのではと考えています。そこに、会長が不倫していたかもしれないという証拠が出てきました。上手く使えば、相手をギャフンと言わせられるかもしれませんよ」
「なるほど、竹千代を罠に嵌めたのを認めて謝罪しないなら、この情報を公表するぞって竹千代の母ちゃんと会長を強請[ゆす]るんだな。やるだろ?」
 「竹千代は当然父の仇を取り、自身の冤罪も晴らすだろう」――もろはがそう考えるのも、竹千代には理解できる。
 でも。
「俺は……」

闇背負ってるイケメンに目が無い。