第1話:同族殺しの竹千代 [1/3]
女子会会場
「もろはって竹千代といつしてるの?」
とわの問いに、もろはは飲んでいた茶を吹き出した。何を、が抜けたが、夫婦になったばかりの男女がすることなんて明白だ。
私はもろはに雑巾を差し出す。
「ありがとせつな。……ったく、三人で飲もうって言い出したかと思えば、訊くことがそれかよ」
「ごめんごめん」
姉は悪びれる様子もない。大体飲むと言ったって、とわは臨月だし、もろはは禁酒しているようだし、私が葡萄酒を舐めているだけなのだが。
「いやでも、本当にいつしてるの?」
「外でやっているんだろう?」
私が言うと、もろはは頷く。とわは目を見開いた。
「そっ、外!?」
「竹千代が陸まで飛んでくれる」
「その手があったか! って、外かあ……」
「?」
「別に珍しくもないだろう」
もろはと私は首を傾げる。
「戦国時代ではそうなの!? いや、あのさ、私の声部屋の外まで響いてるでしょ?」
「ああ」
「理玖の旦那が聞かせてるんだろ、それ」
「そうなんだよ~。最近気付いて恥ずかしくてさあ~」
「今頃か」
私はとわの鈍感さにほとほと呆れる。
「そっかあ……船の中じゃないならそりゃ聞かれないよね」
「この前の朔は竹千代の部屋でしたけど、どうせお前等の方が盛り上がってただろ」
「もうすぐ子が生まれるというのにな」
「寧ろ、もういつ生まれても大丈夫だから調子乗ってんじゃねえの?」
私ともろはが畳み掛けると、とわは落ち込んでいく。
「え~? 竹千代はもっと声出せとか、やめてって言ってもやめてくれないとか、そういうこと無いの?」
「旦那そんなことやってんのかよ」
「最低な男だな。別れろ」
「もうすぐ子供生まれるってタイミングでそれ言う!?」
突っ伏したとわの頭を、もろはがぽんぽんと撫でる。
「アタシは、寧ろ船の中だと『絶対声出すな』って言われるな」
「竹千代らしいと言えばらしいが……」
「それはそれで大変そう……」
「まあアタシがしたい時にしてくれてるって感じだし」
もろはは言って、どこか寂しそうに口を噤む。
「そういえば」
私は葡萄酒のおかわりを注ぎながら言う。
「もろはが竹千代を好きなのは判っていたが、竹千代はいつからもろはのことが好きなんだ?」
「んー……多分結構最初から」
「へえ!」
とわが復活し、目をキラキラさせて乗り出した。
「ていうか、付き合ってる期間ゼロで結婚でしょ? 馴れ初め聞きたい~。二人旅で何があったのさ」
「何もねえよ。あったのはその前」
「やっぱり竹千代が人型になったから?」
「きっかけになったことは否定しないけど、アタシは竹千代の見てくれに誑かされたわけじゃないからな」
「ヒュ~」
「何か盛大な惚気を聞かされた気がする……」
言われてもろはは真っ赤になる。
「旅に出る前に何かあったなら、二人で帰省って言いながら実は新婚旅行だったの?」
「いや、そういうわけじゃ……もうこの話やめようぜ!」
逃げようとしたもろはを引き留める。
「まだ竹千代がもろはのどこを好いているのか聞いていない」
「あ! それ聞きたい!」
「本人に訊けよ!」
「教えてもらってないの?」
思い出したのか、もろはは火鼠の衣と同じ色になる。
「お前等には教えねえよ!」
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