第4章:紅を移す [4/5]
「おいらは気楽なもんさ」
理玖と二人で山道を登る。相手はふとそんなことを言った。
「日本に麒麟はもうおいらだけだから、どうやったって同族殺しになる事は無い」
「理玖様だけ? 麒麟丸様は?」
「死んだよ」
「あの麒麟丸様が!?」
「解っちゃいたが、本当に覚えてないんだな」
「ということは、是露様も……」
是露様はお優しい方だった。俺の為に嘘の情報を流してくれたり……。
「あれ……?」
俺、是露様と何処でお知り合いになったんだ?
『少し出掛ける。ついでに、狸平の手の者を見かけたら、嘘を流しておいてやろう』
そう言った彼女の後ろに見えるのは、今朝もろはに連れて行かれた部屋にあった屏風だ。
『お気をつけて』
俺の隣から聞こえた声は……。
「……居た」
「居た?」
頭を抱えて立ち止まっていた俺を、理玖が心配そうに覗き込む。
「理玖様もその時、一緒に。俺達が乗っているあの船だ。麒麟丸様の物だった」
「思い出したのか? おいらのこと」
「いや、そういうわけでは……」
「そうか。まあ上出来上出来。残りはゆっくり思い出せば良いさ」
「はい。ところで、是露様は何故亡くなられたのでしょう?」
理玖は再び歩き出してから答える。
「おいらが殺したのさ」
なんてことのない風を装った声色。これは、自力で思い出すまで、あれこれ訊かぬ方が良いな……。
「それよりお前、口に紅付いてるぞ。お目通りまでに落としておけ」
「あっ……」
「もろはの事は思い出したのか?」
「いえ……」
「ならまだ負けてないな」
懐紙で口を拭っている俺を振り返り、理玖は言い放つ。
「誰だか判らねえ奴の口を吸うのも分別無いんじゃねえの」
「……そうだな」
向こうから迫られたとはいえ軽率だったかもしれない。
それでも、あの女子のことを好いていたことは解るのだ。
「……悪い。夫婦のことに水差した。おいらも大人気ねえな、ったく」
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Written by 星神智慧