宇宙混沌
Eyecatch

第4話:戦闘服を探しに [1/4]

「翡翠~服買いに行こうぜ~」
「いきなりなんですか」
 月曜日、大学の食堂で翡翠は声をかけられた。相手はゼミの先輩の理玖。
「服が欲しくて」
「どういう目的の」
「若い女の子にモテそうな」
「俺に訊くの間違ってますよね?」
 自分も理玖と同じく、彼女いない歴イコール年齢なのだが。
「そんなことねえよ。なんてったって、まだ二年生なのに特別にゼミに参加してる、博学博識の翡翠様だぜ?」
「俺達の専門、服飾学じゃないんですけど」
「でもおいらの勘が、翡翠なら良いアドバイスくれるって言ってる」
 翡翠は溜め息を吐いた。この先輩には何を言っても無駄だ。適当に面倒を見てやった方が解放が早いのは、経験で知っている。
「とりあえず、ファッション誌でも見たらどうです?」
 昼食後、売店で適当な雑誌を買う。研究室でページを開くと、「raccoon dog」というブランドがピックアップされていた。
「これ、確か竹千代の実家の会社の」
「理玖さんが通ってる店のバイト君でしたっけ? 狸平[まみだいら]グループって、今でこそ傘下に色々あるけど、最初はこのアパレルだけだったらしいですよ」
「へー」
 やっぱり博識だ、と理玖は感心する。
raccoon dog[タヌキ]なのは苗字に入ってるからか?」
「それもあるだろうけど、ブランドコンセプトが『誰でもタヌキみたいに思い通りの変身を』って」
「ブランドコンセプト……」
「企業理念みたいなものです」
「キギョウリネン……」
 難しい。ファッションも奥深いのだな、と頭を抱える理玖に、大丈夫なのかこの人、と翡翠は隣で呆れている。
「まあ、raccoon dogで揃えれば今よりはだいぶマシになるんじゃないですか。組み合わせやすいデザイン多いし、値段もそんな高くないし」
「金に糸目はつけねえけど」
「『ハイブランドだけ身に付けてる男に興味を持つ若い女』にモテたいんです?」
「ああ、ロクじゃねえな、それ」
 翡翠の本質を突く指摘に、理玖は舌を巻く。それに、理玖にはとわが金に釣られるようには思えなかった。彼女自身が裕福な育ちに見えたから。
「それこそ、理玖さんのコネを使えば良いんじゃ? 主席デザイナーの息子さんと知り合いなら、安くで譲ってもらえたり、本格的なコーディネートを提案してもらえるかも」
「え、竹千代の母親ってデザイナーなの?」
「本当に何も知らないんですね。竹千代君のご両親が一緒に立ち上げたブランドですよ」
「いやあ、あいつ家のこと全然話さねえからさあ」
 服だって、竹千代自身は「安いから」とよくわからない中古の着物ばかり着ている。本人が通っているのも服飾系や美術系ではなく、ごく普通の進学校だし、言われなければ気付けない。
(でも、言われてみりゃあ、着物の下はいつも綺麗にしてるよな……)
「よし! ゼミ終わったら屍屋行こうぜ」
「無理です」
「なんで」
「母校のオケ部に顔出す予定があるんです」

闇背負ってるイケメンに目が無い。