第4話:戦闘服を探しに [4/4]
「ていうか私も竹千代さんにコーディネートしてもらいたいです」
とわの口から出たのは、理玖にも竹千代にも予想外の言葉だった。
「は? なんで」
「竹千代さん、実はすごくセンス良いですよね!? 特に色!」
初対面では、着物なんて羽織って変な人だと思った。しかし、今着ているパーカーと、その時着ていた着物は同系色。間違いなく狙ってやっているし、彼が目立つのは奇抜な恰好が原因ではない。ファッションで生まれ持った素材の良さを引き立てているからだ。
「私、よくパステルカラーの服買ってもらってたんですけど、どうにもしっくりこなくて。でも自分じゃ何が似合うのかよくわからなくて。アドバイスお願いします!」
「え、でも、今日バイトの予定あるし……」
竹千代は獣兵衛を振り返る。
「行ってこい。友人関係も大切にしろ」
「……へーい」
「それじゃあ早速行きましょう!」
理玖が子供の様にはしゃぐ。とわもそれを見て笑う。竹千代だけがどんどんテンションが下がっていく。理玖の相手はそれなりに疲れると、経験で知っているのだ。
「でも一旦家に帰りたいです。制服で出歩いてたら、サボってるの丸わかりだぞ」
「よし、じゃあ竹千代の家に寄ってからだ。どうせ駅に行く途中だし」
「来たぜraccoon dog」
「別にうちのブランドじゃなくても良いでしょう」
「何言ってんだよ、雑誌で着回し特集組まれてたぜ? ここなら間違いねえだろ?」
「じゃあその着回しセット買えば良かったんだぞ! 店員に雑誌見せたら全部持ってきてくれるわ!」
「ま、まあまあ。でもそのセットが理玖さんに似合うとは限らないじゃん?」
とわが竹千代を宥める。
「それはそうだぞ」
竹千代は溜息を吐くと、駅前のビルに入っているその店舗の中へ。二人も後ろから続く。
「繰り返しになりますけど、俺が居るからって割引とかにはなりませんから。店員は俺のこと知らないし、第一今は家族経営じゃないし」
「……そうだった。すまねえ」
「?」
先頭切ってエスカレーターに乗った竹千代の横顔は、とわにはとても寂しそうに見えた。
「狸平グループの若きトップ、自宅で急死」――そんな見出しが新聞に躍ったのは、もう十年以上前になる。
「竹千代の親父さん、なんで死んだんだっけ?」
「さあ」
「さあって」
「訊いても突然死としか。当時のニュースにも詳しいこと何も書いてないし。それより、理玖様ととわ、どっちの服を先に見るんです? フロアが違うんだぞ」
「私が後で良いよ」
(そっか、お父さん居ないんだ。……お母さんとも会ってないって、さっき言ってた?)
とわはそこで気付く。竹千代ともろはは、同じ気持ちを共有しているんじゃないかって。
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