宇宙混沌
Eyecatch

第4話:戦闘服を探しに [2/4]

 学校が終わると、とわは一人で家路に着いた。せつなは部活だ。
「狸平く~ん。お家からお小遣いたっくさん貰ってるんでしょ?」
 川沿いの道を歩いていると、橋の下から不良の声が聞こえた。いつも喧嘩を売ってくる奴等とは違ったが、不穏な空気にとわは息を殺し、慎重に下を覗く。
「ちょっとくらいオトモダチに分けてくれても良いんじゃない?」
「一銭も貰ってないぞ」
(あれ、竹千代って人じゃん)
 三人の不良に囲まれているのは、真っ白な制服に身を包んだ、青い瞳に艶ぼくろの少年だった。
(昇陽高校って本当だったんだ)
「というか、俺に友達とか居ないし」
「は~? 俺達のこと忘れてくれちゃってるワケ?」
「小学校の時にプリント家まで届けてあげてたの誰だと思ってんだ~?」
「ああ~。マジで知り合いだったか」
 竹千代は髪をくしゃっと握る。
「マジで覚えてなかったんか」
「まあ良い。友達じゃねえって言うなら、無理矢理貰うだけだ!」
「ちょっと待った」
 無抵抗な竹千代を不良達が掴んだと同時に、とわは思わず止めに入ってしまった。
「一人に寄って集ってカツアゲとかカッコわる」
「なんだよテメェ」
「狸平の知り合いか?」
「知り合いってほどじゃないけど」
 とわは彼等の元に下りる。鞄を下ろし、肩を回しながら近付いた。
竹千代[そのひと]を殴る権利があるのは、私かな」
「意味わかんねえこと言ってんじゃねえ!」
 振りかぶってきた一人を躱し、逆に仕留める。その動きで、不良の仲間が気が付いた。
「こっ、こいつ! 昇陽中の!」
「今はガブ[ジョ]だよ~」

「助かったんだぞ」
 とわが三人をボッコボコにした後、二人は屍屋に向かって歩いていた。竹千代が何か礼をしてくれるらしい。
「ああいう喧嘩はしょっちゅうなのか?」
「うーん、まあ、多少はね」
「俺のこと殴りたいのか?」
「あはは、正直に言えば……」
「ん」
 竹千代は立ち止まって、自分の頬を示す。とわは青くなった。
「そ、そんな! 冗談だよ!」
「よくわからない奴だぞ」
(そりゃこっちの台詞だよ!)
 とわは叫びたいのを我慢して、再び歩き始めた竹千代を追う。
「今日は学校行ってたんですね」
「早退だけどな」
「体、どこか悪いんですか?」
 さっき不良達も、プリントを家まで届けてたって。
「昔は弱かったんだぞ。一人暮らしを始めてから、急に元気になったけど……」
「へぇ……」
(なんだろう、ハウスシックとか?)
「とわ、だったか?」
「はい」
とわには似合うな、その制服。ジャケットにもっとタック入ってる方が綺麗だけど、中学の制服だしこんなもんか」
(タックってなんだろ)
 問おうとしたが、ちょうど屍屋に着いた。
「お疲れ様です」
「なんだ竹千代、また早退か。出席日数ヤバいんだろ?」
「だから点呼には行ってるんだぞ」
 カウンターには強面の男性が座っていた。とわは彼の視線が自分を向いたので、恐る恐る会釈をする。
「二股か?」
「違います」
 竹千代は即否定する。ジャケットを脱いで、置いてあった色物のパーカーを羽織った。制服だとその白さに負けていた顔が、ぱっと素材の良さを発揮し始める。
「絡まれてたの助けてもらったので、お礼を。何でも好きな物選んで良いぞ、俺が払う。俺が払える額のにしといてほしいが」
「良いんですか?」
「飯とかの方が良ければ奢るけど」
「いや、こっちのが良い。すごい、素敵なもの置いてるんですね……」
 とわは先日訪れた時には気付かなかった、置物のコーナーに目を奪われていた。アンティークだったり、キラキラする素材だったりするインテリア小物の中に、硝子細工の林檎を見つける。
「じゃあ、これが良いです」
「獣兵衛さん」
「お前の給料から引いておく。それより本の在庫を捌いてくれ。先週理玖は来なかったのか?」
「来たけど、邪魔が入って――」
「邪魔するぜー」
 そう言って竹千代の言葉を遮ったのは、噂をすれば、理玖本人だった。

闇背負ってるイケメンに目が無い。