第2話:御曹司の事情 [1/3]
「とわさんにせつなさんでしたっけ。どうぞ好きなの頼んで」
理玖達は近くのファミレスに入った。気前良くメニュー端末を此方に向ける男に、せつなは警戒する。
「あの、貴方のお名前は……」
「おいらは理玖っていいやす」
「おいら……」
「研究対象の口調が移っちまいましてね」
「はあ……」
やりとりはとわが受け持った。せつなは黙って、自分の分の飲み物を頼む。
「お二人は双子ですかい?」
「はい。お兄さんは、もろはやあの竹千代って人とどういう関係で?」
「おいらは屍屋の常連客ですね。もろはちゃんとは何度か顔を合わせたことはありますが、あまり話したことはありません」
「つまり無関係の第三者じゃないか」
せつながツッコむと、理玖は苦笑する。
「竹千代には世話になってるんですよ。あそこ珍しい古本なんかも取り扱ってて、竹千代は背取りが上手くてね」
「……まあ良いです。とわ」
「ん」
とわも飲み物を選び、理玖に端末を渡す。それほど待たずにウェイターが持ってきた。一口飲んで、せつなは切り出す。
「単刀直入に言います。竹千代ともろはを引き離してくれませんか」
「そりゃまた何故」
「あの竹千代さんって人がもろはを夜遅くまで連れ回して、挙句の果てに帰さなかったんでしょ!? 悪い影響しかないです」
とわも参戦した。せつなは深く頷く。
「高校にもまともに通っていないようでしたし」
理玖は飲み物に口を付け、見定めるように二人を交互に眺める。
(この子達、もろはの事を何も知らないんだな。下手すりゃ竹千代経由で聞いてるだけの、おいらのが詳しいぜ)
理玖はストローから口を離す。
(これじゃ、もろはは竹千代を選ぶだろうなあ)
「順番が逆ですぜ。竹千代が居なけりゃ、もろはちゃんは一人で徘徊するだけですよ」
「なぜ解る」
「竹千代がそうやって徘徊してたのを拾ったって言ってたんで」
「そこでまず警察に連絡しない時点で、やっぱり悪い人ですよね!?」
「だいたい、竹千代の方も徘徊していたから拾えたのでは?」
「はは、それはそうかもしれねえな。パフェとかも頼んで良いんだけど?」
二人は丁重に断る。やれやれと肩を竦めて、理玖は背もたれに体重を預けた。
「とにかく、あんたらの意向は二人には伝えておきますよ。それで二人がどうするかは知りませんが」
「協力してくれないんですね」
「そりゃ、おいらは今のところ竹千代の味方ですから」
ぷう、ととわが頬を膨らませる。ヤバい、可愛い。理玖は顔がにやけそうになって、慌てて目を逸らした。
「ま、もろはは未成年だし、保護者があれこれ口を出すなら解るんだけど、あんたら従姉の中学生って言ってたな? 自由恋愛に口出す権利ねえだろ」
乱暴な口調に、本性を現したな、とせつなは警戒を強める。
「……そうですか。帰ろう、とわ」
「う、うん……。ごちそうさまでした」
とわはせつなに手を引っ張られて立ち上がったが、名残惜しそうに振り返る。
「あの、貴方はいつあのお店に行くんですか?」
「おい、とわ!」
「毎週この時間帯には居ますよ」
同様に、接点を作っておきたかった理玖は即答する。せつなには睨まれたが、まあ良い。だって自由恋愛だ。
(うーん、中学生相手かあ……)
下手をすれば十歳くらい年下だ。それでもあの凛とした佇まい。ボーイッシュな出で立ちとは裏腹に、隠しきれていない丸みを帯びた体付き。
(竹千代のこと責める気にもなんねえな……)
理玖は追加でアップルパイを注文すると、スマホを取り出して彼女が通う学校の所在地を確かめた。
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