宇宙混沌
Eyecatch

末摘花 [7/8]

仕事

『珍しいだろ』
 珍しいというか、この日の本に麒麟って、麒麟丸様の一族しか居ないんじゃ……。
「あ゛ー!! 何なんだぞこの超絶ヤバい案件は!? いきなり規模が大きくて村八分とかで悩んでる場合じゃないんだぞ~! っていうかこの真珠無理無理無理。こんなの持ってたら素手でも村丸ごと破壊できそうだぞ~」
「落ち着け竹千代」
 とりあえず真珠は獣兵衛様が預かってくれた。
「こんなのあんまりだぞ獣兵衛様! もろはをあのお方に渡して、みすみす死なせるおつもりですか!?」
「だから落ち着け。今からお前に本当の仕事を与える。俺からの依頼だ」
 理玖様はあの通り、奇怪なお考えをされるお方だ。しかし俺達の実力を考えれば、上手く抵抗したり逃げたりする術は無い。
 だからお前がもろはを守れ、竹千代。もろはの事は「借金を残したまま逃げないように」という名目で監視、理玖様には付き人としてその行動を把握、修正するのだ!
「…………は、」
 俺は気の抜けた声を出して、それから深々と頭を下げた。
「ありがとうございます……」
 良かった。一瞬でも獣兵衛様を疑った自分が恥ずかしい。俺が穀潰しにならないように、そしてもろはを見捨てなくて済むように、お膳立てをしてくれたのに。
「わざわざ言うことでも無いかもしれないがな、たとえ理玖様がもろはを手にかけようとしても、人間に化けるなよ。力の差を考えれば、お前がどんな姿であろうと、そうなれば二人とも命は無い」
「はい」
「そんな状況にならないように頭を使え」
「承知なんだぞ」
 俺は背筋を正すと、告げた。
「もろはを迎えに行ってきます」

「すごーい! 飛んでるー! 速い速ーい!」
「うるさ……」
 もろはを乗せて空を飛ぶなんて訳なかった。ヨネよりずっと軽い。が、耳元で叫ぶのはやめてほしいんだぞ。
「しっかしどうしたんだよ急に。迎えなんて」
「ん? んんーまあ……近頃物騒だからな。お前、絶対知らない奴について行くんじゃないぞ」
「わかってるって。ヨネのことがあったばかりだしさ」
「…………」
 妖術をかけて忘れさせているから、話題に上がらないのは自然だけど……一番もろはに危害加えたの俺なんだぞ……。
「解ってるなら良いんだぞ。あと、獣兵衛様がお前『本当に借金返すつもりあるのか?』って」
「あるある」
「その割に稼いでない」
「仕方ねえじゃん! お前が担当してたような案件は、アタシは苦手なんだよ! だから時間かかるの!」
「ただの言い訳だぞ。小妖怪一匹仕留めるのに何日かかってるんだか」
「だからそれは本当はお前の仕事だったのに~」
「とにかく、これからは俺がお前のお目付け役だからな」
「ハァ!? なんだよそれ聞いてねえ!」
「だって今言ったことだし」
「えーずっと見張ってるってこと? 小便とか水浴びとかの時も!?」
「流石にその時は離れといてやるんだぞ……。あと、他にも仕事貰ったから、ずっとってわけでもない」
「あっそ。勝手にしろよ」
 もろはが俺の上で寝転がる。
「そんなことしなくったって逃げないよ」
 嘘付け。俺からは逃げたくせに。
 でも、だけど、逃がす訳にも、摘ませる訳にもいかないんだぞ。
「見張るったって、別にこれまでと大して変わらないんだぞ」
 ずっと同じ部屋に住んでいて、互いの寝相も知っていれば、寒い日は夜着を重ねて一緒に寝たりもしてたんだぞ。お互い知らない事なんて、それこそ、裸くらいか。
 その最後の一輪を手に入れようとして、力を入れすぎた。花は手折られ、萎れるだけ。また新たな花を咲かせるには、違う種を埋めなければ。
「お前が借金返して、俺の仕事が終われば腐れ縁も切れるんだぞ。それまで辛抱しろ」
「そーですか」
 雨が止んだ。屍屋の向こうの海に、虹が出る。
「その次にできる縁は、もっとマシなこと願うよ」

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