宇宙混沌
Eyecatch

第2章:理玖、教えを実践する [3/4]

「うわー綺麗!」
 一面の白い花畑。花束なんかよりもずっと上等だろう。せつなにも見せることになったのは癪だが。
「此処にこんな花畑があったなんて知らなかった」
「ああ」
 とわ様達はしゃがんで匂いを楽しむ。その様子は微笑ましいし、絵画の様に美しいが、さて、ここからどうしたものか。

「返事を引き出すにはどうしたら良いと思う? 切っ掛けが必要だろ?」
「だから、もう一回告は――」
「それ以外で」
「……とりあえず、相手が返事しやすい雰囲気を作るんだぞ」
「例えば?」
「理玖様~。全部俺が考えた計画に沿って成功して、それで本当に嬉しいんだぞ~?」
「おいらはとわ様が手に入れば何でも良い」
「うわ、流石仲間を私利私欲で賞金首にした御方は言う事が違うんだぞ」
 今度はおいらが雑巾を投げ返す。竹千代はひらりと躱して、おいらの隣に来た。
「不躾なことをお伺いしますが、女を口説いたことは?」
「まあ戯れになら」
「ならその時の状況を思い出すんだぞ。もし邪魔が入ったのなら、それを避けられるような場所と時間を選んで二人きりになるんだぞ!」

 おいらが思い出したのは、あの朔の晩だ。折角森の奥深くに連れ出したのに、何と言っても饕餮が邪魔だった。
 そして、今は本人が言った通り、せつなが邪魔だ。やっぱり一緒に散歩というのが最初から間違いだった。
「はい、理玖」
 どうしたものか、と悩んでいると、とわ様がすぐ隣に来たことに気付かなかった。とわ様の手には、歪な形の小さな花束。
「押し花かドライフラワーにすると、伊予にも持って行けるよ。匂いは此処で堪能しといてね」
「とわ様が摘んで作ってくださったのですか? ありがとうございます」
 おいらは花束を受け取って匂いを嗅ぐ。おいらがとわ様に贈ろうと思っていたのに、逆に貰っちまうなんてね。
「はい! せつなには髪飾りにしたよ! 髪長いと似合うね!」
「ありがとう」
 まあ、せつなの方がもっと上等な、「髪に花を挿してもらう」っていう贈り物を貰っていたが。
 とわ様は、少し竹千代に似ている。他人に向かう感情の種類が、全て地続きなところが。
 竹千代の場合、「好いている奴等」の中に身内も仲間もごちゃっと入っていて、同じくらい好いていれば同じように取り扱う。扱いに差が見えるのは、単に竹千代の中にはっきりとした優先順位があるからだ。一番はもろは、次に獣兵衛、おいら、その他の仲間。惚れた相手だからとか、世話になったからとかいった理由じゃない。
 とわ様も同じだ。とわ様はおいらの事を、せつなと同じくらいには好いてくれている。しかし、そこに順番は無い。順番を付けてくれなんて頼んだって、そんなの無理だと仰るだろう。
 おいらの方がより好かれないのならば、向けてもらう感情の色を変えてもらうしかない。
 おいらは貴女の特別な存在になりたいんです、とわ様。
「……とわ様にも似合いますよ。ほら」
 おいらは花束から一本抜き、とわ様の耳に挟む。
「そうかな?」
「とわ様の髪の色とよく馴染みます」
 これまではおいらが勝手にとわ様をお慕いしているだけで十分だったのに。生きている肉体を手に入れた所為でしょうかね。

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