宇宙混沌
Eyecatch

第3話:理玖、とわを謀る [3/4]

 さて、ここからどういう風にとわ様の羨望の心をくすぐるつもりなのだろう。はらはらしながら物陰に隠れていると、とわ様の方から口を開く。
「その人は、もろはの特別な人なんだよね?」
「人じゃないけどな」
「あ、妖怪?」
「一応」
「なら尚更、数年くらい待っててもらおうよ。ま、細かいことは置いといて。特別な人が居るってさ、どんな感じ?」
とわが自分から話し出すって見越した台本だったとしたらすげえな」
 本物のもろはが呟く。おいらも頷いた。
「結構長く至近距離で話してて、未だに見破られてないだけでも十分凄いがねえ」
 しかし、ここからが正念場だ。お前の凄さはよく解ったから、頼んだぜ、竹千代!
「うーん、どんな感じって言われても……」
「じゃあさ、もろははその人のどこが好きなの? きっかけは? 普段二人で何してるの?」
 とわ様の目に輝きが戻る。
「そっ、そんなのどうだって良いだろ!」
「ええ~? 相談乗ったんだからちょっとくらい聞かせてよ!」
「うぐ」
 竹千代は、もろはが言葉に詰まった時によくしている癖を真似する。
「最初に言った通り、そもそも恋仲でもなんでもねえんだよ。ただその……あいつがアタシの為に一生懸命になってくれるから、アタシもあいつを守ってやりたいだけで」
「へぇ……なんか良いな、そういうの」
とわだってそう思うだろ?」
 竹千代が顔を上げる。
「理玖の旦那はとわのこと命懸けで守ってくれたじゃねえか。お前の方こそ、あいつを『特別』にしたいなら、さっさと唾付けとかねえと他の女に取られるぜ?」
「唾付けるって……」
「だってあの顔だぜ? 理玖にその気が無くても、周りは捨ておいちゃくれねえよ」
「い、言われるとそうかも……」
 とわ様が頭を抱えた。
「あ~~! でも何て言えば良いの!?」
「今さっきアタシに助言した口で何言ってんだよ」
「希望を言えば良いのは解ってるよ~! 私が理玖とどうなりたいのか解んないの!」
 意外な言葉に、息を呑んだのはおいらだけじゃなかった。もろはも、竹千代も、黙ってとわ様の次の言葉を待つ。
「実は、理玖に『愛してる』って言われたんだよね。でも理玖が死ぬ間際だったから、何にも返せなくて」
「結局まだ返してない、と」
 竹千代は初耳を装う。とわ様は頷いた。
「愛してるって、よくわかんないよ。私はあっちの世界に居た家族のことも、こっちの世界の家族も、もろはも、竹千代も、もちろん理玖のことも好きだよ。きっと皆を愛してるんだと思う」
「…………」
「だけど理玖の言う『愛してる』って、多分違うんだよね。自分を一番にしてくれって意味か、自分を特別にしてくれってことか」
「理玖にとってとわは特別だし、一番だろうしな」
 そうだなあ。寧ろ「唯一」に近いかもしれねえな。ま、そんなだからとわ様の博愛のお心を、掴みかねているのであって。
「このまま『私も』って返しちゃったら、それって『私も理玖を特別で一番にする』って意味に取れちゃうじゃん? そうしたくない訳じゃないんだけど、それで本当に良いのかな」
「……『皆好きだ』ってのは、結局『皆嫌いだ』と大差ねえぜ」
「え?」
「って、昔あいつが言ってた」
「もろはの好きな人が?」
「そ。全員掬い上げようとしたって、一人じゃ無理なんだとさ。でも」
 竹千代は前を向き、小さな手を目いっぱい広げる。とわ様はその横顔を真摯に見つめて耳を傾けていた。
「誰かと力を合わせればなんとかなることもあるって。とわがどーしても選べないってんなら、選ばない為に理玖を選べよ」
「難しいこと言うね……」
「大体、好き嫌いの差はあるのが普通だろ。とわのことを陰で慕ってる奴が他にも居るならともかく、他の奴等は、選ばれなかったからってお前を責めたりしねえよ」
 とわ様は頭を抱えていた手を下ろす。
「そうだね。そうかも。もろはに頑張れって言っといて、私は頑張らないなんてフェアじゃないしね」

闇背負ってるイケメンに目が無い。