宇宙混沌
Eyecatch

第3話:理玖、とわを謀る [2/4]

 また振り出しに戻る。皆でうんうんと唸っていると、竹千代が「あ」と何かを閃いた。
「おっ!? なになに?」
「妙案を聞かせてくれ」
「ちょっと待ってください、言葉を選ぶ必要が……」
 竹千代がおいらに目配せし、それからもろはを示す。もろはの前では言いにくい何かなのか。
「元はと言えば理玖様だって、俺やヨネ[たにん]を羨んで焦っているのでしょう? とわにも嫉妬や羨望を植え付ければ良いんだぞ」
「確かに。例えばどんな?」
「うーん、結婚って良いものだなあ、って思わせるとか……」
「おしどり夫婦でも見せつけますか」
「でもとわの両親が最強じゃね、それ」
「「確かに」」
 殺生丸夫婦の仲睦まじさを毎日浴びていれば、耐性がありそうだ。
「いや、でもこれでいこう。今まで出てきた中で一番まともだ」
「具体的にどうするんです?」
「もろはに恋人が居るということにして、盛大に惚気けてくれ」
「なんでアタシが」
「そりゃ同性の方が良いだろ。せつなは万が一協力してくれたって、逆にとわ様が嫉妬しそうだし」
「だからってアタシに演技とか無理だって! だいたい男が居た事なんてないし!」
「好きな男も?」
「好きな男は……」
 もろはは竹千代をちら、と見てからすぐに目を逸らす。ははあ、こりゃまた面白いことになってますねぇ。
「俺がもろはに化けて謀っても良いぞ」
「そうだ! 此処に演技の達人が居るじゃん!」
「もろはに化けるのは良いのか」
 とにかく、それで話はまとまった。翌日、竹千代はもろはに化け、彼女の匂いに似せた香水を付けてとわ様の元へ。おいらはもろはと共に、二人の様子見だ。
「どういう台本で?」
「結局あの後家まで送ってもらったんだよ。竹千代が一人で考えたから知らない」
「そうですかい」
 竹千代を信頼していないわけじゃないが、中身を知らないままぶっつけ本番というのは少し不安だ。
「とわ~」
「もろは。今日はお休み?」
「借金全部返し終わったって言ったろ? これからは好きな時に休めるんだよ」
「そうだったね」
 化けた竹千代がとわ様に接触する。おいら達は物陰からそれを見つめた。
「それでさ、ちょっと相談があって」
「どうしたの? 私で良ければ力になるよ」
 二人は移動し、楓様の家の近くの階段へ。中程に座り込んで、竹千代が話し始める。
「もうすぐ伊予に発つだろ? アタシさ、ちょっと良い仲の男が居て――」
「ふええええええ!?」
 途端にとわ様が目を輝かせ始める。おいらの隣のもろはが呆れた。
「とわ、この手の話好きそうだもんな。他人のなら」
「はは……ご自分の事にも、もうちょっと興味を持ってくだされば良いんですけどねぇ」
「ちょっ、それ、詳しく!」
 とわ様は竹千代に掴みかからん勢いだ。
「急かすなって。でさ、離れ離れになるから、どうしたもんかなと思って……」
「あ……」
 竹千代の悲愴たる演技、上手すぎだろ。本当に演技か?
「そっか……そうだよね……。待っててくれるような人じゃないの?」
「どうだか。別に恋仲とか、将来誓いあったとかじゃないしさ」
「でももろはは好きなんでしょ、その人のこと」
「多分……」
「多分って」
「よくわかんないけど、一緒に居ると気が楽なんだ。アタシ四半妖だろ? だから周りに馴染めないことも多かったけど、そいつも似たようなもんでさ」
 さて、元ネタは一体誰のことだろうな。ちらり、ともろはを見ると、目が合う。
「いかにもアタシが言いそうな話し方で、毎回妙な気分になる」
「はは」
 自分に化けられてたら、話の内容よりそっちが気になるのはしょうがねえか。
 しかし、本人すら認めるくらい似てるなんて、それだけ竹千代がもろはをよく見てるってことだろ。
「恋仲じゃないって、どこまで進んでるの?」
「どこまでって?」
 とわの質問に、もろはに化けた竹千代は背を丸めて首を傾げる。その仕草も一々もろはらしい。
「んー、手繋いだり、口吸いしたりとかは?」
「それは無いけど、一緒に寝たことならある」
「え゛え゛!?!?」
「文字通りの意味だよ! 添い寝添い寝」
「なんだびっくりした……。でももろは、普通好きじゃない人とは添い寝しないよ」
「そうか?」
「そうだよ。きっと相手の人ももろはのこと好きだよ」
「そうかな」
「んもー! もろはって変なところでいつもの自信失くすよね」
「いつものはただのやけっぱちだよ」
 竹千代が剝き出しの膝を抱える。その肩をとわが力強く叩いた。
「じゃあやけっぱちでも良いよ! 出発前にちゃんと言おう!」
「何を?」
「『修行から帰って来るまで待ってて』って!」
「でも何年かかるかわかんねえし、相手はもういい歳だし……」
「だからって、居ない間に他の人とくっつかれて良いの!? また一緒に二人で過ごしたいなら、ちゃんとそうしたいって言わないと駄目だよ!」
「……そう、だな。今度言ってみるよ」
「うんうん!」

闇背負ってるイケメンに目が無い。