宇宙混沌
Eyecatch

第1章:理玖、竹千代に教えを乞う [2/3]

「ま、面倒くさがりのお前さんが、村娘を食い荒らすなんて波風立てる事はしねえか」
 竹千代が手元にあった雑巾を投げ付けてくる。おっと、言葉が過ぎた。
「いずれにせよ、もろはが此処に来るより前の事だぞ」
 赤子をあやしながら平然と言ってのけるが、おいらは益々困惑する。
「……もろはが此処に来た時、お前幾つだ?」
「十四」
「じゅうよ……」
 言葉が無え。おいらの知らない世界が広がっている。
「別に普通だぞ。実家に居たら元服して嫁貰ってただろうし」
「あーそっちもそっちで知らない世界」
 それが本当に普通なのかは疑問を挟む余地があるが、とにかくおいらは焦った。今後とわ様とあんな事やこんな事をする際、この歳で未経験だと知られたら笑われるのでは?
 おいらは赤子を挟むように陣取り、竹千代の両肩に手を置く。
「ちょっとその行きずりの女に会える所教えてくれねえか!?」
「何の用かと思ったらそんな事訊きに来たんだぞ!? いくら理玖様でもちょっと気持ち悪いんだぞ!」
 はあ、と竹千代は溜め息を吐く。
「大体、行きずりは気持ち良くても気分悪いんだぞ~。俺だって飯代宿代、金が無いなら体で払えって言われただけで~」
「そうなのか。悪かった」
「たーえ!」
 その時、裏口から女の声がした。
「この子の母親だぞ」
 竹千代は赤子の手を引いて裏へ。おいらもついて行くと、別嬪でふくよかな女と、痩せた老人が居た。
「たーえ!」
 舌足らずな女はそう言って、竹千代ごと赤子を抱き締める。
 良いな。とわ様も、おいらとの子をああやって抱き締めてくれる、そんな日が来やせんかね。
「もう腰は大丈夫なのか?」
「お蔭様で。さあ、帰るよ」
「あ~ね~」
 女は片方の手を赤子と繋ぎ、もう片方でにこにこと手を振る。傷も豆も[あかぎれ]も無い、綺麗な手。
「村娘とは思えねえくらい綺麗だな。着物さえちゃんとすりゃあ、どこかの姫様みてえだ」
「何仰るんだぞ」
 竹千代は裏口を閉めると、呆れ顔でおいらを見上げた。
「働いてないから……働けないからあんなに綺麗な手なんだぞ」
「……なるほど」
 そんな発想、おいらにゃ出てこねえな。竹千代がわかったのは、かつて自分も、あのような綺麗な手をしていたからだろう。

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