宇宙混沌
Eyecatch

幸せになってよ [3/4]

「……もろはじゃないか」
「クソッ! やっぱりお前の方が速かった!」
 ごろり、と妖怪の首が地に落ちる。それを落としたのは、傘を被った少年だった。
「さっきの!」
 顔を見て気付く。屍屋の前でもろはと話していた人だ。
とわせつなも。もろは、雲影の退治はどうしたんだぞ?」
 あれ、私のこと知ってる?
「また今度!」
「どうやら、同じ獲物を追ってしまっていたようだな」
 せつなは肩をすくめ、もろはは悔しそうに頭を抱える。
「くっそ~。出発前に特徴とかちゃんと聞いとくんだった!」
 少年は刀を振って血を払い、鞘に納めた。最後、チャキンと音が鳴ると同時に、賞金首の肉が砂となって崩れ落ちる。
「すご~い。妖術ですか?」
「そうだぞ。理玖様に教えてもらった……」
 少年は言葉を切り、私を見て困惑する。
「ああそうか、この姿は初めてだった」
「私は判っているぞ、竹千代」
 せつなの発言に私は驚いて、それからこれまでの全ての点が線で繋がって、声が裏返る。
「竹千代……」
 納得だ。もろははいつも、竹千代の事ぬいぐるみみたいに抱いてるから、今更動揺も何もないだろう。人間みたいに戦うって、人型に変化して戦うってことかぁ……。これまでの会話で気付けよ、私。
「とにかく、この首は俺が貰うぞ」
「構わない」
「しゃあねえな」
 竹千代は頭蓋骨を抱え上げる。子狸の姿だと大きくて運べないので、今日はこのままの姿で帰るらしい。
「乗せて帰ってよ」
 もろはが出発前と同じように竹千代に抱きつく。
「遠くないんだから、たまには歩くんだぞ」
 竹千代は、やはり引き剥がして歩き始める。
「けちー」
「でも竹千代、なんでずっとこっちの姿じゃないの? 体大きい方が便利だよね?」
「確かに。昔は普段もこっちの姿のことの方が多かったよな?」
「昔は追手が怖かったからな。あと理玖様に、何故かは知らぬが『とわ達にはこの姿を見せるな』って言われてたんだぞ」
「理玖に?」
 名前が出てきてドキッとする。当たり前じゃないか。竹千代は理玖の腹心だったんだから。
「もう良いわけ?」
 もろはが尋ねる。
「だってもう……」
 理玖は死んだから。
 青い瞳が横目で振り返り、チラリと私を見た。気を遣われたのがわかったので、私はわざと明るく言ってのける。
「いやーだって竹千代イケメンだもん。こんな男前が近くに居たら、気が散って四凶退治や虹色真珠どころじゃなくなっちゃうよー」
 理玖が妬くのもわかる。妬いてくれていたのか。それも全部、もう何の意味も無いけど。
「それはとわだけだろう」
 せつながツッコむ。もろはは黙って竹千代の着物にしがみついた。
「あっ、別に竹千代のこと狙ってるとかそういうのじゃないです」
 慌てて補足する。もろはがほっと息を吐いた一方、竹千代は溜息を吐く。
「もろは。お前、本当に借金返す気あるのか?」
「アタシは残り一両で良いんだよ」
「だからって、一両貰える仕事が来た途端渋らなくても良いんだぞ」
 なるほど、一人じゃ退治できないんじゃなく、誰かと一緒に退治して取り分を減らしたかったのか。
「第一、親が悲しむんだぞ。折角戻ってきてくれたんだし、孝行しろよ。俺はもう、したくても出来ないんだぞ」
 ああ、そうだ。死んでしまったら何もしてあげられない。親孝行も、告白の返事も。
 だから私ももろはが羨ましい。だってまだ、好きな人が手の届くところに居るんだもん。本人が自覚してるかどうかは知らないけど。
「お前が出来なかった分をアタシに押し付けんなよ」
「俺はもろはに幸せになって欲しいんだぞ」
 その言葉にハッとした。
 私は、そうやって誰かが幸せになることを願いもしないで、嫉妬ばかりして、汚いな。
「アタシ達、一緒に暮らそうって言ったじゃん!」
「屍屋に一生居る気か? 借金返して独り立ちすれば良いんだぞ。二人で」
「ちょっと待て」
「何さらっと凄いこと言ってんの君達!」
 急に痴話喧嘩を始めた二人に、流石のせつなも黙っていられなくなったらしい。前を歩いていた二人が足を止めて振り返る。
「その話詳しく!」
「いつの間にそんな仲になっていたんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「あの後色々ありすぎて、俺もすっかり忘れてたんだぞ……」
 二人は顔を見合わせると、ニカっと笑って宣言した。
「化け殺しのもろは様と」
「賞金稼ぎの俺は」
「「二人で最強の賞金稼ぎになる!!」」
「えっ……それだけ?」
 てっきり結婚します! とか言うんじゃないかと思って変な期待しちゃった……。
「今日早速、一緒に働くのを断っていたではないか」
「ちょい待ち。せつなちゃん、実は全部見てたのか?」
「悪い。見ていた」
「盗み聞きは趣味が悪いぞ」
「ほう。ならお前の白い貝を寄越せ」
「前言撤回、今回は許すんだぞ」
 三人はわちゃわちゃと話しながら再び歩き始める。私は置いていかれそうになって、慌てて足を浮かせた。
 置いて行かれちゃ駄目だ。他の人の幸せを妬んじゃ駄目だ。
 でも。
「寂しいなあ」
 その小さな呟きは、隣に居たせつなの耳には届いてしまったみたい。せつなは私の手を掴むと、ぎゅっと握ってくれた。

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