幸せになってよ [2/4]
「つまり世が世なら殿様ってこと!?」
「そういうこと」
二人にじっくりゆっくり、懇切丁寧に説明してもらって、私はやっと理解した。
「竹千代も苦労人だったんだねえ。って、人じゃないか」
「まあ、屍屋で奉公なぞしている時点で、相当な訳ありだろうとは思っていた」
「やっぱそうだよな。アタシも薄々勘付いてはいた」
「ど、どのへんで?」
「たまに殿様言葉が出る」
「時々、獣兵衛さんと立場が逆転して見えるんだよ。あと、妙に武芸に長けてたし」
「なるほど……。でも、竹千代が戦ってる姿、全然想像つかないな……」
「そう? 素速い人間みたいな戦い方だけど。まあその所為で、巨大な妖怪とかとは相性が悪いんだけどさ」
「妖力や威力ではなく、技の俊敏さと精確さで勝負といったところか」
「ああ。あいつは身を隠す必要もあったし、大体いつも姿を消して近付いて、首を狙って一撃必殺って感じだな」
「賞金稼ぎっていうか暗殺者みたいだね……」
と、言っていると妖気を感じる。
「下の道だ」
崖の下を見下ろす。傘を被った男の人? が歩いていた。
「あの人を狙って、何処かに隠れてるのかな?」
「「…………」」
「ちょっと、今度はどうして二人共黙ってるの?」
「気になっていたんだが」
「とわ、お前、ますます鼻が悪くなってねえか?」
「えっ……」
気付かれてた。誰にも言ってなかったのに。
自分でそれに気付いたのは、理玖を埋葬した直後のことだった。すぐそこには海があるのに、周囲には花が咲き乱れているのに、何の匂いもしなかった。
心当たりはあった。母上が、酷く悲しいことや辛いことがあると、体の機能を失ってしまうことがあると言っていた。母上は声を失って――私はそれが嗅覚なんだ。
「だ、大丈夫だよ~。多分一時的なもの! 母上だって声戻ったんだし、私のもそのうち戻るって」
「だと良いけど……」
「くれぐれも足を引っ張るなよ」
せつなの言い方は捻くれているけど、心配してそう言っているのはわかる。私は刀の柄を握りしめ、近くに潜んでいる妖怪に警戒した。
「来た!」
せつなが叫ぶ。例の通行人に襲いかかった妖怪の首を狙って、飛び出したもろはが刀を振り下ろした。
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Written by 星神智慧