宇宙混沌
Eyecatch

幸せになってよ [1/4]

「今日は二人には、人食い妖怪の退治を頼む」
「人食い妖怪、ですか……」
 私と妹のせつなは、琥珀さんからそう命を受けて現場へ向かった。
「そうだ、もろはも誘わない?」
「何故」
「屍屋、通り道だし。早く終わる方が良いじゃん?」
「ふむ。寄るだけ寄るか」
 珍しく、せつなはすんなりと私の案を受け入れる。
「もろはの方が人間に近いからな。囮になるかもしれない」
「ちょっ、従妹の扱いが雑……」
 苦笑しつつ屍屋に向かうと、もろはは店の前で、誰か私の知らない少年と話していた。
「あのイケメン、誰だろ」
「…………」
 せつなが無言で私の上着の袖を引っ張った。
「え、何?」
「話が終わるまで待とう」
 茂みに隠れて、成り行きを見守る。
「良いじゃん、手伝ってよ」
 そう言って、もろはは少年に抱きついた。
「!?」
「…………」
 ちょっとちょっと、せつな! なんでそんな落ち着いてるの!? もろはがイケメンに抱きついてるんだけど!?
「何あれ、もろはの恋人?」
 せつなは何か言いたげな表情で私を見る。が、何も言わない。
「え、何? 言いたい事あるなら言って?」
「しっ」
 せつなは再び様子見に戻る。何か知ってるなら、教えてくれても良いじゃん。
 少年は抱きしめられている事は気にも留めない様子で、淡々と答える。
「俺には俺の仕事があるんだぞ」
「急ぎなのか?」
「お前がこの前逃げられて、しくじった相手だぞ。代わりに行ってやるんだから、ありがたく思え」
 言って漸くもろはを引き剥がした。もろはは頬を膨らませる。
 良いなあ。あんなに密着しても平気みたいだし、本当に恋人なのかな。
 恋人、という言葉で思い出されるのは理玖の事だ。あの人は、私に言うだけ言って、居なくなってしまった。
 それを思い出すと、もろはの事が羨ましくなった。私と理玖の事と、もろはの恋路は全然関係無いのにさ。
「それとも一緒に来るか?」
「へ?」
 いじけているもろはに、少年が提案した。
「大体、俺が手伝ったらお前の取り分が減るだろ。俺の仕事もお前が手伝うなら、その分帳消しにしてやるんだぞ」
 もろはは首を横に振る。
「やめとく」
「そうか。じゃあ、気をつけるんだぞ」
「そっちこそ」
「行こう」
 少年が道を下り、もろはが屍屋に入ったのを見て、せつなが道に戻る。
「こんにちは獣兵衛さん。もろは借りていい?」
「良いぞ」
「何勝手に決めてんだよ。アタシも狩る首があるの!」
「一人じゃ不安なんだろ」
 獣兵衛に言われて、もろはは歯軋りをする。
「へえ、誰?」
「おいとわ、こちらは急ぎなんだ。もろは、人食い妖怪の退治の依頼があってな。お前にも来てほしい」
「なんでアタシが手伝わねえといけねえんだよ」
「退治屋は首に興味は無い。金になりそうなら、退治した妖怪の死体はくれてやろう。お前も最低限、自分の食い扶持は稼がねばならんだろう?」
「……そーだな。解ったよ、一緒に行くよ」
「じゃあ行って来ます、獣兵衛さん、竹千代……って、あれ? 竹千代は?」
 私はその時、やっと竹千代の不在に気付く。姿を隠しているのかな。
「別の仕事に行った」
「別の仕事? 竹千代って、理玖のお供をして稼いでたんじゃないの?」
「何言ってる。あいつも[れっき]とした賞金稼ぎだぞ」
 獣兵衛さんの言葉を、もろはが補強する。
「竹千代のが賞金稼ぎとしては上だもん。だから小言言われても、何も言い返せねえんだよなあ」
「そうなの!?」
「…………」
 またせつなが黙って思案顔だ。今日どうしたんだろ。
「アタシに刀の扱い方教えてくれたのも、竹千代だしな」
「へぇ~。意外」
「あの」
 せつなが口を開いた。獣兵衛さんに尋ねる。
「竹千代って、もしかして狸平の? 幼くして身罷られたと聞いていたが……」
「おお、せつなちゃんその通り」
「表向きはそうなっていたらしいな」
 もろはも獣兵衛さんも、せつなの問いにイエスで答える。が。
「私にも解るように説明して!?」
 せつなが呆れた顔で振り返る。
「『竹千代』は、狸平の当主になるべき男児が代々受け継ぐ幼名なのだ」
「いやその『まみだいら』が何なのかから説明して!」
「なんだよ知らねえの? アタシでも知ってるのに」
「私は戦国初心者なの!」
「ま、向かいながら話そうや」
 もろはが店を出る。私達も外に出て、せつなが目的の方角を指差した。

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