君が冷たいのはその胸の内が熱いから [8/12]
「……全部忘れさせたってのか、その記憶を」
「ものの小半刻ほどのこととはいえ、ずっと術をかけ続けるのは大変なんだぞ。だから獣兵衛様が俺に変化するなって言ったのは好都合だった。妖力の節約になる」
「だからって……二年近くも!?」
理玖様は説明する前よりも混乱した表情で頭を抱える。
「なんでそんな事したんだ? 想い合ってたのに無かった事にするなんて!」
「もろはが俺を怖がったからだぞ」
一度は押し倒した時。二度目は子供の腕をもごうとした時。
けれどもろはは。
『だとしてもあんまりだよ!』
震える声で、それでも俺を庇ってくれた。
「俺はもろはを守ってやらないとなんだぞ」
戦う術を奪われたから、これまでは致し方なかったが、大きな敵が居なくなった今となっては違う。
「悪い妖怪から」
それは、俺のことだ。
「……ま、おいらもとわ様のことは守って差し上げたいと常日頃思ってるけど」
理玖様は厳しい口調で言った。
「おいらは、そうやって勝手に記憶を消したり、一方的に突き放す行為の方がよっぽど悪いと思うぜ」
「……そうですね。だから返してやるんだぞ。もろはが後ろ髪引かれないように」
俺の言葉に、理玖様がハッとする。
「竹千代、まさか……」
「人間への変化って結構疲れるんだぞ~。理玖様もそろそろお引き取りください」
間もなくもろはは思い出す。あの日本当は何があったのか。
「寝過ごしたらお見送りはできないと思いますが、ご容赦くださいだぞ」
いや、最初から行く気などない。
引き留める理玖様を振り解いて、俺は奥に引っ込む。もろはの持ち物はとっくに両親との家に移動し終わっていて、この部屋は再び俺だけの物になっていた。
正しい記憶が戻れば、俺は二重の意味で獣だ。破壊衝動はもろはも抱えているから、それ程嫌悪感が無かったのかもしれない。けど、無理やり手籠めにされそうになった記憶は、恐怖を与えこそすれ、あの気まぐれのような愛情なんて、思い出させない筈だ。
「嫌わない理由が無いんだぞ」
自分で呟いたくせに、その言葉は深く胸に刺さった。
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Written by 星神智慧