宇宙混沌
Eyecatch

君が冷たいのはその胸の内が熱いから [7/12]

 上手くいっていたのは、口付けて、押し倒して、もう一度口付けた時くらいまでだった。
「竹千代」
 震えた声が名を呼ぶまで気付けなかった。掌の下の鼓動は信じられないくらい速く、目には涙が浮かんでいる。
「やっぱり駄目だって……こんなの……」
「何が?」
 駄目ってなんだ。嫌、ではないのか。
 少し思案した俺の手が緩んだ隙に、もろはは逃げた。籠を放置して、俺も慌てて追い駆ける。
「もろは!」
 村の外れで追いついた。細い手首を掴むと、もろはは痛みに顔を顰める。
「悪い。でも『駄目』って何だぞ? そりゃ嫁入りにはちょっと早いかもだけど、別に早すぎるわけじゃ――」
「違う! なんかこう、段取りみたいなのあるだろ! もっと逢瀬を重ねてからとか――」
「おい! 化け狸が女連れてやがるぜ!」
 もろはの言葉を遮ったのは、村の子供達だった。籠を背負っている。彼等も山菜採りだろう。
「そいつ四半妖だろ?」
「お前狸以外にも手を出すのかよ」
 もろはの着物は然程乱れていないが、俺は言い訳するにはちと厳しい。とりあえず襟元を正して、印を隠す。
「あの噂、本当だったんだな」
 あの噂。どうしてか、俺は村娘を一人孕ませた事になっていた。その娘は知恵遅れで口がきけないから、周囲が言いたい放題なのだ。
「おい――」
「もろは」
 事実ではないとはいえ、この状況でもろはに聞かせたい話ではない。もろはを黙らせることには成功したが、子供達は黙っていない。
「ヨネを孕ませたのはお前だろ、竹千代」
「そうだそうだ!」
「なんてったって[ケダモノ]だからな」
 俺は舌打ちをし、もろはは隣で青くなる。
「なんだよそれ。竹千代、嘘だよな?」
「当たり前だぞ。どうせ生まれたら判るんだぞ、ただの人の子だって」
 俺ではないとしたら、村の男衆の中の誰かだ。自分達の中で犯人探しをしたくないから、普段から虐げている俺に責を擦り付ける。
「下賤の者共など放っておけ」
 言って踵を返そうとしたが、何故だかもろはは俺に矛先を向けた。
「同じ村に住んでるんだぜ? 何もそこまで言わなっ!?」
 子供の一人が石を投げてきて、もろはの額に当たった。目の横に流れ落ちてくる血に、俺の箍が外れる。
 俺は駆け出した。それを見た子供達も。散り散りになる子供の中から、石を投げた者に狙いを定める。
「おい」
 追いついた子供の着物を掴んで引き倒す。うつ伏せに転がし、背を踏みつけた。
「顔に傷が残ったらどうするんだぞ」
「いっ、痛い痛い痛い!!」
「竹千代、やめろ! お前そんなことでアタシを捨てたりしないだろ!?」
 そこから先のもろはの記憶は弄っていない。

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