宇宙混沌
Eyecatch

君が冷たいのはその胸の内が熱いから [6/12]

 最初は、弟の代わりであった。手慰みに可愛がっていたらもろはの方も俺に懐いて、俺にも情というものが湧いた。
「竹千代は誰に教わったんだ? 料理」
「自分で色々やってるうちに覚えたんだぞ」
「へー」
 その日はめぼしい案件が無くて、二人とも暇だった。天気が良かったから二人で山菜採りに出掛けたが、もろははすぐに飽きて、その辺の花を摘んで何かを編み始めた。
「良いなー。竹千代と結婚したらあの美味い飯毎日食えるのか」
「結婚しなくても、今も毎日食べてるんだぞ……」
「そうだった」
 もろはは編み終わると、花輪を俺の頭に乗せる。
「海の向こうの国の偉い人はさあ、こうやって冠を頭に乗せてるんだって。お前偉そうだから乗せてろよ」
「どこでそんな知識手に入れるんだぞ」
「うーん、出先の町の人とか?」
「ふうん。これ食える花だな」
「ああっ! 食うのかよ!」
 俺が籠に突っ込んだ花輪を、もろはが覗き込む。
「食わなければ萎れるだけだぞ」
「そりゃそうだけどさ~」
 その時、振り返ったもろはが花に見えた。自分の言葉が頭の中で反響する。
 花は萎れてしまう。あっという間に。
 四半妖のもろはも。
「……もろはは俺と結婚したいか?」
「えっ!?!?」
 もろはは着ている着物と同じくらい赤くなって、籠をひっくり返す。慌てて溢れた草を拾いながら、早口で問い返してきた。
「いきなり急に何だよ!?」
「いや、結婚とか言い始めたのお前なんだぞ……」
 俺も拾うのを手伝う。花輪は俺の指が触れると、緩んだ結び目からばらばらに解けてしまった。
「したいって言ったらしてくれるのかよ!?」
「構わないぞ」
「えっ、良いの?」
 さっきから何なんだ。全部自分から言っておいて。眉を寄せて首を傾げていると、説明がある。
「いや、その……アタシ四半妖だし、つかお前とだと、犬と狸だし」
「お前の親は半妖と人間だし、更にその親は犬と人間なのでは? それよりはまだ近いんだぞ、多分」
 確かに、実家に居たら反対されただろうな。でも構わないだろう。もう二度と、あの城に戻ることなど無い。
「それに、アタシは借金あるし」
「……踏み倒せ」
「えっ」
「というか、もう今日このまま行方を晦ますんだぞ。元はと言えばお前の借金じゃないだろ?」
「大半はそうだけど、それって……」
 獣兵衛様への裏切りだ。恩義は感じているが、俺については居ない方が面倒が少ないだろう。もろはの借金については、改めてもろはの師匠に取り立ててもらえば良い。
「俺と一緒になりたくないのか?」
「……竹千代は、誰でも良いってこと?」
 もろはは言って俯く。いつもの前向きさはどこに行ったんだ。
 いや、違うのかも。
 こっちが本当のもろはなのだと気付いて、俺はその小さな体を腕の中に収めた。
「良いわけないが、どうせ信じないんだぞ」
 俺は言って、自分の胸元を開けた。
「浮気できないようにしたら良い」
「?」
「他の女が噛んだ痕があったら、おちおち他所では寝れないんだぞ」
「……どこでそんな知識手に入れるんだよ」
「教えな~い」
 もろはは俺の返答に頬を膨らませたが、やがて両頬を真っ赤に染めたまま、花弁のような唇を俺の胸に押し当てた。

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