宇宙混沌
Eyecatch

君が冷たいのはその胸の内が熱いから [5/12]

「竹千代。!?」
 店を覗き込んだ理玖様は、俺の姿を見て驚いてから、慌てて笑顔を作り直した。
「竹千代、だよな? 匂いが」
「この状況で俺以外が居る方がおかしいしヤバいんだぞ。もろはとすれ違ったのでは?」
 俺は涙を袖で拭くと、そこから伸びる手を見つめた。長く戦ってないから少し痩せたな。さっき床にやるせなさをぶつけた方は、赤く腫れている。
「とわは帰ったのですか?」
 立ち上がり、刀は何処かと棚を探す。
「まあ」
「明日には発ってくださいだぞ」
「まあそう急かすなって。もろはと何が……」
「?」
 急に言葉を切ったので、手を止めて振り返る。
「どうされました?」
「いや、お前えらく男前というか、色気があるというか。ほくろなんてあったか?」
「狸の姿だと毛で隠れるので。確かに、歳の割には大人びてるとよく言われたんだぞ」
「とわ様が好きそうな顔だ……。じゃなかった、もろはと何があったんだい?」
もろはには、行きたくない本当の理由を伝えたんだぞ」
「それでもろはは納得したと」
「そのようです」
「それはおいら達には言えないか、言っても納得させられねえから、嘘を?」
「全部嘘、というわけでもないんだぞ。まあ言っても良いけど……とわせつなには言わないでほしいぞ」
 あいつらは多分面倒くさい。俺はもろはに伝えた理由と同じ事を囁いた。
「……え?」
 しかし俺の読みは甘かった。
「え、ええ? なんでだよ竹千代。もろはと何かあったのか??」
 うわ、面倒くさ。結局全部話すことになるのか。
「何かあったと言えばあったし、無かったといえば無かったんだぞ」
「とにかくそりゃあ、納得できねえよ。だってお前等仲良いじゃねえか!」
「条件付きの仲の良さなんだぞ」
「条件?」
「理玖様、俺が何故四凶の居場所を正確に突き止めておきながら、いつも無傷で後も追われず帰ってこれていたのか、考えた事はございませんか?」
「えっ」
 唐突な問いに、理玖様は狼狽える。
「そりゃあ、お前は姿も消せるし、逃げ足も速くて……」
「俺は、変化で匂いを消したり変えたりはできません、理玖様。俺より足の速くて鼻の利く奴には、敵いっこないんだぞ」
「……じゃあどうやって?」
「俺は――」
 ごく僅かなら、他人の記憶を改竄できる。そういう妖術が使えるんだぞ。

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