宇宙混沌
Eyecatch

君が冷たいのはその胸の内が熱いから [4/12]

「……そっ……か……」
 竹千代が離れたいのはアタシだ。その事実は深く胸を抉る。
「そうだよな……アタシ、竹千代の足引っ張ってばっかりで……」
 竹千代は黙っていたが、店に近付く気配に顔を上げる。アタシも振り向くと、暖簾を腕に乗せて、人間の少年が中を覗いていた。
「お前は……」
 あの時の、石を投げてきた奴。
「何の用だぞ?」
「用と言う程では。一言伝えたくて」
「今更何だよ」
 竹千代が手を上げて、アタシの言葉を遮った。少年は中に入ると、告げる。
「今度嫁を取るんだ」
「ふうん」
 竹千代はそれだけ言って、短い脚をぶらぶらさせている。
 竹千代のどうとでも取れる態度は、言われた側を試す。アタシはそれを許容と受け取って、こいつは拒絶と見たらしい。元々緊張していた顔が、更に強張る。
「それで……竹千代に、謝ろうと思って」
 少年はめげずに続けた。
「何をだぞ? 俺はお前に何もされていない」
 言ってアタシを見た。
「そうだった。悪かったな、もろは」
「もう良いよ、竹千代が肩引っこ抜いたのでチャラだろ。傷も残ってねえし」
 前髪を上げて見せる。少年はほっとした顔で、再び竹千代を見た。
「俺は、お前があの時どうしてあんなに怒ったのか、ずっと解らなかった。竹千代は何を言われても何をされても、言い返す程度で手を出してきた事はなかったからな」
「えっ? そうなの?」
 てっきりあちこちでやらかして嫌われてるんだと思ってた。
「それで俺達子供は調子に乗ったし、大人は逆に気味悪がった。すまなかった。歩み寄れなかった事も、もろはに怪我させたのも……俺も大切な人ができるまで解らなかったんだ」
「何故それをわざわざ言いに来たんだぞ?」
「あの件は俺達が悪かった。だからもう変化[へんげ]して良い。じゃないと、お前達――」
「それはお前には関係の無い事だぞ」
 竹千代が少年の言葉を遮る。
「……ああ、そうだな」
 流石に心が折れたのか、少年は挨拶も覚束ない様子で店を出て行った。
「何もあそこまで突っぱねなくても。本人が許してくれたんだから、ありがたく人間に化けりゃあ良いじゃん」
「ああ。お前が居なくなったらな」
「何だよそれ、変な奴。大体、なんでやり返さなかったんだよ。もっと普段から毅然としてたら、ここまで拗れなかったんじゃないか?」
「弱い者苛めなどすれば、菊之助に顔向けできないんだぞ」
 どの口が、という言葉はぐっと堪えた。石のことはアタシの為だったし、普段アタシを苛めてるのは、まあ、アタシの方が強いし?
「というか、変な奴なのはもろはの方だぞ。いつまで俺なんかに纏わりつくんだぞ?」
「鬱陶しかったなら、ごめん。……今日は帰るよ」
 アタシも暖簾を潜る。数歩歩いたところで、背後からドン! と床を強く叩く音と、いつもよりも少し低い声の短い悪態。
「竹千代……」
 なんで怒ってんの? 様子を確かめたかったが、離れたいと言われたばかりだ。とても戻れなかった。
「もろは」
 とわと理玖が戻って来る。
「さっき来客があったのが見えたんで。話は済んだのかい?」
「結論から言うと、竹千代を連れてくのは無理だ」
「ええっ、どうして?」
「あるいは、アタシが此処に残るなら考えてくれるかもな」
「ふむ」
 理玖は思案顔になって、とわにアタシを預けた。
「今日のところは帰りなさいな。おいらも二人で話してみまさあ」

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