宇宙混沌
Eyecatch

君が冷たいのはその胸の内が熱いから [2/12]

 竹千代は、昔はこんなにアタシへの当たりが強かったわけじゃない。昔から気が強いというか、カッとなったら抑制できない奴だったけど、それでも優しくしてくれる事の方が多かった。
「戻りました」
 最初に会ったのはアタシが身請けされた日の晩で、人間に変化していた。腰には刀、手には賞金首。一端の賞金稼ぎだ。
「その[おなご]は?」
 獣兵衛さんが事情を説明する。
「ということで、部屋も半分使わせてやってくれ」
「ふうん」
 竹千代はそれだけ言って、晩飯をアタシの分も用意してくれた。美味しかった。
 すんなりと受け入れられた事が嬉しくて、アタシは自然と竹千代に懐く――というより纏わりつくようになった。
「お前名前は?」
「妖怪みたいだけど何の妖怪?」
「なんで屍屋[こんなところ]に居んの?」
 質問には答えてくれたりくれなかったり。あまりにしつこいと眉間に皺が寄る。
「ねえってば」
「お前、あまり俺の傍をうろつかぬ方が良いぞ」
 答えの代わりに、そんな警告が返ってくる。
「なんで?」
 答えてもらえなかった。しかし、理由は間もなく知ることになる。
「ほらあれ、屍屋に売られた子よ」
「また増えたの?」
「獣兵衛さんも人が良いんだから。今度は何の妖怪なのかしら」
「あ、アタシは犬の四半妖」
 ある日村を歩いていたら、井戸端会議が耳に入る。名乗りを上げると、女達は作り笑いを浮かべた。
「しはんよう?」
「親父が犬との半妖で、お袋は人間だって聞いた」
「まあそうなの」
「ほとんど人間なのね」
「でもあの子の方が、見た目は人間らしいわね……」
 一人がアタシの爪を見て言う。そっか、人間には妖怪って怖いんだよな、とアタシはさり気なく手を引っ込めた。
「何言ってるの。人間そっくりだから質が悪いんじゃない!」
「そうよ。化かされるなんてごめんよ」
 あの子って……竹千代の事だろうな。
「あの――」
「もろは」
 その時、当人の声が背を叩く。女達はギョッとして、口を噤んだ。
「油を売っていたのか? 仕事はどうしたんだぞ」
「今から行くよ!」
 振り返れば、竹千代はまだ血の滴る妖怪の死骸を手にしている。道理で女達が青ざめたわけだ。
「貴女も賞金稼ぎなの?」
 竹千代が居なくなってから、そう訊かれる。
「え、まあ、成り行きで……」
「無理しなくて良いのよ」
「養ってあげるとは言えないけど、この村には人手の足りてない仕事が多いし、お金が必要なだけなら紹介するわよ」
「……ありがとう」
 彼女達の親切心は嘘じゃない。だから必死で愛想笑いをした。
「でも、アタシは戦ってる方が性に合ってるんだ」
 でも、同じ場所に巣食っている差別心もまた、本物だった。

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