宇宙混沌
Eyecatch

君が冷たいのはその胸の内が熱いから [1/12]

「こんにちはー」
 とわが屍屋の暖簾を潜る。アタシもその後に続いた。
「とわ様にもろは」
「また来たのかだぞ」
 出迎えてくれたのは、理玖と竹千代だ。
「あれ、獣兵衛さんは?」
「ちょいと野暮用って言って、どっか行きやした」
「夜遅くまで戻って来れないらしいぞ」
「へえ。珍し」
 理玖と再会して、早三日が経つ。荷物が少ないアタシ達は、行こうと思えばすぐにでも伊予に出発できた。というか、退治しないといけない妖怪が居るんだから、本来ならば悠長にしていられない。
 けど、まだ武蔵を離れられない。理由はひとえに、此処に座っている子狸妖怪だ。
「で、竹千代。伊予に行く気になった?」
「なってない」
 とわの問いに即答する。理玖もやれやれと肩をすくめた。
「おいら達、お前さんの力を頼りにしてるんだよ。なあ、一緒に来ねえか?」
「行かないんだぞ」
 三人で溜め息を吐く。
 ここまで頑固なら置いて行けば良い。そうは思っても、最後まで一緒に麒麟丸と戦った仲間だし、実際皆を乗せて飛べる奴が居ると便利だ。雲母は置いて行かないと、とせつなに言われてしまったし、頼みの綱は竹千代だけ。
 それに……いつも一緒に居たのに、離れ離れって寂しいじゃん。
「せめて、なんで行きたくねえのか教えてくれよ」
「何度も言ったんだぞ。俺は戦えないし、もうあんな怖い目に遭うのは御免なんだぞ。それに俺までついてったら、獣兵衛様独りになるんだぞ」
「竹千代がそんなに嫌なら、無理強いする事もないんじゃない?」
 とわが竹千代の肩を持つ。専ら竹千代を連れて行きたいのはアタシと理玖で、せつなと獣兵衛さんは中立、とわは竹千代の意思を尊重しようという立場だ。
「無理強いなんかじゃねえよ」
 竹千代の言葉は嘘だ。アタシには解る。竹千代の挙げた理由一つ一つに反論できる。
 竹千代は本当は――あの約束を破れば――戦えるし、戦えない状態なら此処に残ったって穀潰しになるだけだ。
 なのに、どうしてついて来ないのか。その理由が解らなかった。もし、アタシに原因があるとかだったら、と思うと気が気でない。
 それに。
「竹千代は、本当はこの村を離れたい筈だろ!?」
 だってお前はこの村の奴等が――いや、違う。
「お前はこの村の奴等に――」
「もろは」
 低い声が遮った。瑠璃紺の目がアタシを見上げて威圧している。
「それ以上その話をするなだぞ」
「ごめん……」
 声が少し震えた。竹千代は顔を手で覆い、残る二人はアタシ達のただならぬ様子に緊張の表情。
「すみませんが二人にしていただけませんか」
 竹千代が理玖に言う。理玖は頷くと、とわの手を引いて出て行った。
「もろはに嘘は通用しないんだぞ、忘れてた。だったら本当の理由を言ってやる」
「……何だよ」
「俺が離れたいのはこの村からではない」
 嫌な想像は的中する。
「お前だ、もろは」

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