宇宙混沌
Eyecatch

第3章:初めてではない [4/4]

「理玖さんは何故、竹千代を腹心に据えたんですか?」
 依頼主の城に向かって山道を進んでいると、翡翠が尋ねてきた。
「最初は獣兵衛さんに頼まれたのさ。殺されかけて、屍屋[うち]で身を窶している若君をどうにかしてくれって」
『殺されたのさ。可哀相にね』
 おいらにも、子供が殺されるのが惨いことだという認識はあった。ましてや、愛[ゆえ]ではないなんて。
「おいらは昔、子供を助けられなくてね」
 結局、死ぬまで一度も笑顔を見せなかったりおんの事を思い出す。
「会うだけ会ってみるかと思ったら、すっかり情が移っちまって」
 りおんは己の死を望んでいた。竹千代は己の生を諦めていた。幼子がそう覚悟することの痛ましさは、木偶人形のおいらにも理解できた。
「へえ。なんか意外です」
「もちろん、あいつが何かと優秀だったってのもあるぜ。生い立ちからして口の堅さも信用できるしな」
「ああ……」
「でもまあ、『おいらが竹千代の命の保証をする』って契約を差し置いても、俺は竹千代を守っただろうよ」
 麒麟丸がおいらの言葉に耳を傾けたとは思えないが、それでもあの日、りおんを連れて行かないよう進言していれば……。できた足掻きをしなかった後悔など、二度としたくない。
「竹千代の方も、最後までおいらの供をするって言ってくれたんだがね」
「……きっと思い出すよ。俺達がそう信じてやらないでどうする」
「そうだな」
 言った足取りは重い。山を越えるのがこんなにも重労働だったなんて。いつもは竹千代が飛んでくれるからな。
「それに、万が一記憶が戻らなかったとしても、新しく竹千代の居場所を作り直してやるのが、俺達のすべきことだろ?」
 おいらは翡翠の顔を見る。真っ直ぐな視線が、同様においらを見ていた。
「若さが眩しいな」
「いや、あんたも妖怪の中ではまだ若い方なんじゃ……」
「経験の差だ。翡翠は、矜持を折られて猶、その矜持に縋り付くしか無い者の姿を、見たことがないんだろう?」
「……無い、と思う」
「まだ空っぽの木偶人形の方がマシだ」
 何も期待されず打ち捨てられた木偶人形と、完璧を期待されて飾り立てられた傀儡と。どっちが辛いかなんて比べるものではない。それでもおいらは、己の生死すらままならなかった竹千代を憐れむのだ。可哀相に思うのだ。
「何年もかけてやっと捨ててくれたと思ったのに、それだけはしっかり掴んでるんだから、まったく」
 だから思い出させないといけない。頭では解っている。だが。
「今の竹千代は、能力的には記憶を失う前の竹千代のままだ。人型への変化が解けてねえしな。やり方さえ思い出せば、前みたいに何でも出来るだろう」
「そうか。それは良かった」
「だったら、誇りを挫くような思い出なんて――」
「それ、俺に話す前にとわにも話したろ?」
 翡翠がおいらの言葉を遮り、飛来骨を担ぎ直す。
「俺の意見はとわと同じだよ、多分。違ったとしても、理玖さんは俺の意見よりとわの意見を優先するはずだ」
「……こりゃあ、何もかもお見通しですかい」
「ずっと悩んでるのは見ればわかりますよ。でも、悩んだって俺達には竹千代の記憶を取り戻すことも、逆に戻ってくるのを止めることも出来ない。ただ見守ってやることしか」
 言って翡翠は先に行く。
「多かれ少なかれ皆後悔してるし悩んでるんだよ! クソッ」
 おいらはその背に、少し励まされた気になる。
「やっぱり若さは良いな。言葉も考えも素直だ」

♥すると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングなどに反映されます。
※リストへの反映には時間がかかります。

Written by