第3話:初めてではない [3/4]
初めてではない
「まずはこの船の船員構成から説明するぞ。気になる事があったら手を挙げて止めてくれ」
翡翠が砂浜に、木の枝を使って絵を描いていく。
「親玉が理玖さん。その下に竹千代、戦闘員、非戦闘員の三種類の部下が居る。戦闘員は俺と姫様達だけで、他の人間の男衆は全員非戦闘員だ」
話を聴いていた竹千代が手を挙げた。
「儂はどういった立ち位置なのだ?」
「端的に言うと理玖さんの『右腕』だ。理玖さんの命があれば何でもやる。戦闘には直接参加しないけど、空を飛べるからいざという時の為に近くで待機してることが多いな」
「確かに飛べるが、誰かを担いで飛んだことなどないぞ」
「今の竹千代は、五人は乗せて飛べるぜ。他に質問は?」
「何故あの女子達を『姫』と呼ぶ?」
竹千代は近くに居たアタシ達を示す。それにはアタシが答えた。
「とわとせつなは殺生丸の娘だからだよ。アタシはその弟の犬夜叉の娘」
全然そんな感じしないけど、一応親父も貴族の血は引いているらしい。
「殺生丸様の、娘……」
竹千代は元々大きい瑠璃紺の目を、これでもかと見開いてとわ達を見比べる。とわは頭を掻いて苦笑した。
「いやあ、そんな姫様らしい事は全然してないんだけどね」
「なんなら、実の父と過ごした時間より、お前と過ごした時間の方が長いかもしれないぞ」
「そうなのか。何か複雑そうだな」
「今一番複雑になってるのはお前だよ」
アタシは溜息を吐く。四半妖のことは無視ですかっと。
「――とまあ、こんなところかな。一回じゃ覚えられないだろうから、何度でも訊いてくれよ」
翡翠の説明が一通り終わると、理玖が感心した。
「いやあ、翡翠に任せて良かった」
「ほんと。理路整然としてすごく解りやすかったよ」
「ああ。実に助かった」
とわと竹千代も説明の上手さを褒める。翡翠は照れながら砂にかいた図を消した。
「それじゃ、おいらと翡翠は依頼主の所に行ってきますんで。とわ様はあまり遠出なさらぬよう」
「うん」
「私が見ておく」
「それじゃ、竹千代はアタシと行くか」
「久々の町へのお出かけなんだし、お洒落したら? 前に、お裁縫教えてくれる時に仕立てた着物、まだ一回も袖通してないでしょ?」
「確かに」
とわの提案に頷く。良い反物で作ったって、船の上じゃ着る機会がねえんだよな。
「待っててくれるか?」
「構わぬ。儂ももう少しまともなのに着替える」
部屋に戻り、着替えて、竹千代がくれた紅を差す。弓や刀は、まあ置いてって良いか。
「そうするとちゃんと年頃の娘らしいな」
部屋を出ると、既に竹千代が着替えて待っていた。着付けは教えてやったらすぐに覚えてくれたので助かる。
「人妻だから娘ではないか」
「どっちでも良いよ」
人妻、と言う声が他人事で、また悲しくなる。
それでも、竹千代が自分から町に出たいと言い出したんだ。
「竹千代は何が見たいんだ?」
「全てだな。こうして自由に歩き回るのは初めてゆえ」
言って一歩踏み出してから、立ち止まってアタシを振り返る。
「本当は初めてではないのだろうが」
「気ぃ遣わなくて良いよ。気が済むまで付き合ってやるからさ」
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。