第3章:Never come true [3/4]
「うわぁ~。りん、こんなに綺麗な玻璃を見るの初めて!」
何事も無く屋敷に通されて困惑している。そして話には聞いていたが、殺生丸の奥方が幼――若くて更に戸惑っている。時代樹の中で時を止めていたとはいえ、まさかこんな小柄な方だったとは。
「海の物にしようかと思ったんですが、鮨はとわ様達も臭いが苦手なようでしたから。喜んでいただけて何よりです」
硝子の食器に目を輝かせている奥方を挟んで、両隣にはせつなと殺生丸。せつなは眉間に皺を寄せておいらを睨んでいる。言いたい事は、そりゃ沢山あるだろう。殺生丸の方は……無表情。
こんな怖くて強そうな妖怪相手に喧嘩売ってたのか麒麟丸は。身の程を知れ。おいらが言える立場じゃないのは百も承知だが。
「あ、あの、とわ様は?」
「奥でくろと寝ている」
まさかの殺生丸直々の返答に、苦笑しかできない。
「くろ?」
「とわの末の妹に当たる」
続きを答えたのは小妖怪だ。もろはが言っていた子の事か。
「姫君に『くろ』ですか」
「黒毛じゃから」
「仮の名前なんだけど、殺生丸様が気に入ったみたいだから、もうこのままくろちゃんになっちゃうかもね」
「はぁ」
「とわが教えてくれたの。外国の神様で、くろのす……? に似てるって」
「ああ、Khronosですか」
え??? 娘の名前の決め方そんな雑な感じなんですかい? 考えすぎてたおいらが阿呆くさくて消えてしまいたい。
「旦那さんが来たんだし、起こしてくるね」
奥方が奥の部屋に消えた次の瞬間、おいらはせつなに胸倉を掴まれていた。
「辞世の句くらいは聞いてやろう」
「カッとなったら抑制が効かないところ、とわ様とそっくりですね」
「お前にやる為にとわを船に残したわけではないぞ!」
「お、落ち着けせつな! 殺生丸様の前だぞ!」
おいらはせつなの腕を掴み返す。
「お互い想い合っての事なんだから、反対するならそれなりの理由を挙げてもらいたいもんですね」
せつなの瞳がカッと見開かれた。
「所詮お前は麒麟丸の――」
「ワンワンワウッ!」
突如響く犬の声。それでせつなも落ち着きを取り戻した。
「所詮、何です?」
「……いや、少し、酷い事を言いかけた」
せつなは言うと奥に引っ込む。代わりに奥方と、寝惚け頭で必死に複雑な事を思案している風のとわ様が出てきた。
「理玖……遅かったね」
「すいやせん。途中まで船で来たもんで。とわ様も無事で何よりです」
「どうしたのとわ。つわり?」
「いや、まだちょっと眠いだけ……」
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Written by 星神智慧