君を傷付けるだけの愛だった [1/4]
「全部脱げ」
山の中に佇む、朽ちかけた廃寺の中。いつも逢瀬に使っている場所で、いつになく低い竹千代の声に、もろはは渋々従った。
衣も袴も脱ぎ捨てる。口元にほくろのある少年は、もろはの肌を嘗めるように隅々まで目で確認すると、続けた。
「中も見せろ」
もろはは壁を向き、露わになった尻を突き出す。これまでに何度も見られて、触られて、挿れられているが、いつもと違う状況での念入りな確認に、つい蜜を零しそうになる。
こんな屈辱的な格好をさせられている理由は明白だ。檮杌を倒しに行って紅を使って、丸一日野外で無防備に眠っていた。竹千代は「使うな」と日々繰り返していたのに。
もろはは竹千代に借りがある。借金の利子分を竹千代に肩代わりしてもらう代わりに、何でも言うことを聞くという約束をしている。
だが、竹千代が怒っているのは、もろはが「紅を使うな」という指示を聞かなかったからではない。その結果、寝ている間に他の男に襲われたかもしれないからだ。紅の反動で眠ってしまうと、何をしたってもろはが目覚めないことは、竹千代が一番良く知っている。
「あっ、や……」
竹千代が濡れそぼる花弁を指で開いた。荒い息が、熱くなってきたそこをくすぐる。
「今回は何もされてないみたいだな」
「これまでだって何もされてねえよ! お前以外には」
「そうか」
竹千代は立ち上がると、そのままもろはの腰を抱く。もろはの下腹部に手をやり、ついに溢れ出た蜜を掬い取ると、そのまま中に押し込み戻した。
「あっ! ちょっ、激し……」
もう片方の手が乳を摘んできたので、もろははその腕に縋るようにして快楽を逃そうとする。結んだ長い髪が滑り落ちた首筋に、竹千代は唇を寄せて印を付けた。
もろはが身請けされて三年。竹千代と最初に契ってからは二年半。竹千代はとっくにもろはの弱い所も、どこまで行けば限界を超えるのかも、知り尽くしている。
「あっ、やだ、やだ、指でイクの……!」
「今日は特に弱いんだぞ? 紅の反動がまだ続いてるんじゃ?」
手の平までびしょびしょになり、竹千代は懇願されるがままに指を抜いてやる。自分に向かせて口づけ、そのまま床に押し倒した。
「仕置きに、紅を使っても立ち上がれなくなるくらいにしてやる」
「やれるもんならやってみ、うぁ、あんっ」
もろはの威勢も、挿れられれば無に帰してしまう。大体、体力面で竹千代と張り合うだけ無駄だと、良い加減解ってはいるのだが。
(だってこうでもしないと、いつも途中で止めちまうし……)
妖怪の竹千代としては、もっと長く激しく交わっていたい筈だ。しかし四半妖のもろはを慮って、いつも一度、多くても二、三度もろはが果てたところで、竹千代は身を解いてしまう。
(その為に紅使ったわけじゃないけどさ、たまには竹千代にも満足してほしい)
竹千代は、自分が我慢して済むのであれば、そうして自分の中に閉じ籠もってしまう。
(アタシの前でくらい、もっと素直でも良いじゃん。だって――)
だって、何だろう。もろはは二人の関係を表す言葉を、まだ決められない。竹千代が何も言ってくれないから。
仕置きだと言ったくせに、竹千代はいつも通りの速度で、いつもと同じ深さまでしか入ってこない。そういう優しいところが、もろはは好きだ。
もろはは竹千代の首に腕を回して、優しく抱え込む。耳元で竹千代の喘ぎが響いた。
「出そうだぞ」
「ん、中に出していーよ」
いつもはそう言っても外に出すのに、今日は珍しくそのまま果てた。互いに顔のあちこちに口吸いし合っていると、挿れたままの物が再び膨らむ。
挿れて、出して、挿れて、出して。日が暮れたのか、隙間から差し込む光が弱まって、互いの表情が読み取れなくなった。
何度目か果てた後、竹千代は少し休もうと体を離した。それがもろはには妙に寂しく感じられて、思わず腕を掴んでしまう。
「どうした?」
「あ……」
もろははいつも訊けなかった。
もろはは竹千代のことが好きで体を許している。それは竹千代にも伝えてある。
だけど、竹千代から同じ言葉を引き出せた試しは無くて。
「竹千代、アタシが借金返し終わってもこうしてくれる?」
叩き込まれた快楽に酔った頭が、ついにそう口に言わせた。
考えれば妙な話だ。支払いが終わって金の切れ目が縁の切れ目となった時、金はもう出さないが関係を続けてくれ、と願い出るのは竹千代の立場の方だろう。
でもそれは、惚れた弱みというもので。
「アタシ、竹千代の――」
「俺が武蔵に居られる間は」
竹千代は遮るように言って、口づける。
「……何処か行っちゃうの?」
「さあな」
竹千代は誤魔化して、再びもろはの中を指で弄る。自分が吐き出した、欲を煮詰めたものを、できる限り外に掻き出した。
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