娘を膝の上で寝かせてたら男の名前呼ばれた [2/4]
「これりん! 殺生丸様がいらっしゃるのに犬夜叉を連れてくるとは何事か!」
「ごめんなさい、忘れてたの」
「殺生丸様のこと忘れてたの!?」
「だって今日起きてから一言もお話してないよ? 静かすぎて忘れちゃうよ」
殺生丸はりんと邪見が騒ぐ奥で、りんの言葉通り黙って座っていた。俺は用意された座布団に腰を下ろすも、やっぱり居心地は最悪だ。
「大体、殺生丸様の留守中に犬夜叉が出入りしてるのだって、殺生丸様がご寛大だから――」
「邪見」
「はい」
邪見が黙らされて静かになり、りんも座る。
「それで今日は何の用? 山菜はなくなっちゃったから、今とわが採りに行ってる」
「ああ、いや、その……」
この話殺生丸の前でするのかよ。まだ楓にする方がマシだったかもしれねえ。
「なんじゃ、歯切れが悪いの」
「りんと二人で話す予定だったんだよ」
「犬夜叉お前、殺生丸様の奥方に何を――」
「邪見」
「あっ、はい……」
沈黙が降りる。余計に話しにくくなった。
「もろはは元気か?」
最初に口を開いたのは、殺生丸だった。
「え? ああ。今日も竹千代と仕事に行ってる」
「そうか」
それきり殺生丸は黙る。でも取っ掛かりができたな。
「実はもろはの事で相談というか、単に話を聞いてほしいっつうか」
「そんなのかごめと話せば良かろう」
「話したよ! したら笑われた」
「じゃありんは笑わないように気をつけるね」
言って顔を両手で挟んで動かないようにするので、こっちが笑いそうになった。
「あ~~~! 今殺生丸様がちょっとお笑いに――痛い!」
殺生丸が邪見を殴る。その隙に言ってしまった。
「いやその、もろはが竹千代のこと夢に見るくらい好きみてえでさ。いざ竹千代が嫁に貰いに来た時に、どういう対応するのが良いのか見当がつかなくて……」
「ふーん」
りんは笑わなかったが、その他の反応も薄かった。
「なんだよその反応」
「りんじゃなくて殺生丸様とお話しするのが良いと思う!」
「なんでだよ」
「りんは洗濯物干さないといけないし」
そうだった。緊急で重大な用事かと思って同席してくれていたのか。またも反論が見当たらず、家事に戻るその背を見送る。
「は~。あの犬夜叉がそんな親っぽい悩みを抱える日が来るなんてなあ……」
「一応親だからな……」
「まあでも、殺生丸様も丁度今同じ立場じゃわい」
「邪見!」
「ヒイッ」
「おいやめろって」
蹴飛ばされそうになった邪見を引っ張って背に庇う。
「同じ立場ってこたぁ、どっちかが男連れてきたのか?」
そのまま後ろから邪見が説明する。
「あやつらが伊予に行く前から、とわと理玖が付き合っておるのは知っていたんだがな。最近とわが帰ってきたのは良いが、あろうことか理玖までうちに居候しておるのじゃ」
「なるほど……」
「とわ達が帰ってくるのも久し振りゆえ、大目に見たい気持ちは殺生丸様にも無きにしもあらずかもしれませんが、些か理玖は調子に乗る男だし……」
殺生丸は溜息を吐いて再び腰を下ろした。俺も邪見を離し、座る。
「そっちのが嫁に出すまで秒読みじゃねえか」
「…………」
「大体お前が娘を森に放置したり、俺を閉じ込めたりするから、家族の時間が減ったんだぜ?」
「…………では貴様が阿久留を探せば良かったのだ」
「悪ぃ」
ものすごい小声で反論されて、逆に薄気味悪い。いや、でも俺を閉じ込めたのお前だろ。
なんで俺が謝ってんだ、と殺生丸を睨むと、いつもより若干黄色い目を大きく見開いているような、いないような。
「で? 殺生丸は許すつもりなのか?」
「……犬夜叉は許すのか?」
「決められねえから相談しに来てるんだよ」
「竹千代になんぞ不満でもあるのか?」
邪見が口を挟む。確かに、俺は竹千代の何が不満なのだろう。
血筋は文句のつけようがない。もろはももう十六、竹千代はそれより歳上だから若すぎるということもない。何より二人は、金を稼ぐという点では俺達夫婦よりも長けている。性格? 俺達兄弟みたいに、弟とギスギスしてないだけでも見上げたもんだ。
「殺生丸は理玖じゃ不満なのか?」
「不満しかないが」
邪見も首を振って、殺生丸の言葉を補強する。
「麒麟丸の角という時点でもう駄目。昔の口が裂けても良いとは言えない趣味趣向もご存知だし」
「俺あいつの事よく知らねえけど、やっぱりやべー奴なのか……」
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