「もろはを膝で寝かせてたら寝惚けて『竹千代』って呼ばれた」
それを聞いたかごめは、沈んだ俺の声とは反対の、大きな声で笑う。
「なんだ、昨日から元気無いと思ったら、それで落ち込んでたの? 犬夜叉も娘は可愛いのねえ」
「当たり前だろ!」
「良いじゃない。もろはにも仲が良い友達が居て」
「友達なのか? あれ」
本人達は否定しているが、傍から見ればどう見ても好き合っている。そう遠くないうちに竹千代がもろはを貰いに来るのではと戦々恐々としていたところ、先日とわに、既にもろはの方から竹千代との同居を提案していたと聞いた。
『まあ、その時もろはは犬夜叉さん達がもう死んでるって思ってたみたいだから、気が変わった可能性はあると思います』
とわの慰めが色んな意味で心に沁みた。どうやったらあの殺生丸からこんな優しい子が生まれるんだ。
「恋人でも、あたしは反対しないわよ。あたしのママがあたしを応援してくれたように、あたしももろはの選んだ人なら応援してあげたいもの」
一分の反論の隙も無え。俺はよぼよぼと家の外に出る。
この気持ちに共感してくれる奴は居ないか? かごめは駄目だった。楓ババア……に話すのはなんか矜持が傷付く。弥勒は先日、
『いやあ、娘達もすっかり行き遅れの仲間入りですよ。犬夜叉、この際妖怪でも半妖でも良いから、良い殿方が居たら紹介してくれんか』
とかぼやいてたから立場が真逆だ。
頭を抱えていると、明るい歌を歌いながら道を行く若い女が見えた。
「とーわの『と』ーはー『とまと』のとー」
いや、違うだろ。ていうか「とまと」ってあっちの世界にある野菜だろ。なんで知ってるんだ。
しかし、あいつなら、共感できなくても同情くらいはしてくれるだろう。
「りん!」
「犬夜叉様」
「これから家行って良いか?」
「良いよー」
俺は道に下りて、りんが運んでいた洗濯物を持ってやる。
「あっ、そうだ」
りんが思い出したように言ったのは――実際忘れてたんだろうが――りんの家に着いてからだった。
「いま殺生丸様帰ってきてるの。大丈夫かな?」
それ、戸を開けた今言うか? だがここで引き返すのは「大人げない」ってやつだろう。もろはにも兄弟仲良くしろって言われてるし、しゃあねえ。
「……俺は気にしねえぜ?」
そう言って、俺は殺生丸の屋敷に足を踏み入れた。