「アタシ竹千代の家行ってくる!」
もろはは屍屋を飛び出した。
「うわっ! あれ、もろは!」
屍屋に向かっていたとわとぶつかりかけたが、無視して走る。
(竹千代より先に家に入って、隠れといてやる)
具合が悪くてそっとしておいてほしいなら、竹千代はそう言うはずだ。あの言い方、何か隠している。
「よし!」
間に合った。もろはは衣装部屋に身を隠す。
「フロックコートを裂け?」
「はい。確かにそう言っていました」
数分後、知らない男の声と、竹千代の声が入ってくる。
「そのコートはこっちの部屋に……」
そして、竹千代が襖を開くと同時に、もろはと目が合う。竹千代は髪の毛をくしゃっと握って、溜息を歯の間から漏らした。
「俺『来ないでくれ』って言ったぞ?」
「だ、だって気になるじゃん……」
「この子が彼女さんですか?」
「まあそうです」
「初めまして。私は昇陽高校の教諭の弥勒と言います」
「えっと、日暮もろはです……」
「そこ退くんだぞ。奥のコートに用がある」
竹千代は重厚なコートを埃除けの下から引っ張り出す。弥勒も中に招き、道具入れの中からリッパーを取った。
「何するんだよ」
「解体する」
コートを揉み、中に何かが入っている場所を探す。
「此処だ」
背中の上部。生地が厚いし、自分ではまだ袖を通したことがないから気付かなかった。
後で縫って元に戻せるよう、慎重に糸を切っていく。封筒が入っていた。
「……何だと思いますか?」
怖気づき、竹千代は弥勒の顔を見る。
「何でしょうねえ」
「見たら判るだろ」
もろはが竹千代の手からそれを奪い、中の紙を取り出した。
「なになに~。DNA鑑定結果通知書、二名の間に親子関係を認めない……」
「誰と誰の!?」
弥勒は驚いた声を出してしまってから、竹千代の顔を窺った。竹千代は意を決して、もろはから手紙を奪い返す。その二名の名を確かめて、目を見開いた。
「……俺の父さんと……」
弥勒ともろはは固唾を呑んで、竹千代の言葉の続きを待つ。
「菊之助。母さんが不倫してたってことだな」