「いつ見ても『豪邸』という言葉がぴったりだな」
弥勒は竹千代の家の前に車を停め、二桁億は下らなさそうな屋敷を見上げる。ベルを鳴らすと、タカマルが出てきた。
「これは先生」
「突然すみません。竹千代君の様子は?」
「そろそろ目覚めても良い頃なんですけど……」
「お母様は仕事ですかね」
「ええ。もうすぐ菊之助坊っちゃんは帰ってくるかと」
竹千代の部屋に通される。声をかける前に、青い目が弥勒を見た。
「……あー、あー。先生」
ひとまず声が出て、竹千代とタカマルはホッとする。
「単刀直入に訊きましょう。何かされたのですか?」
「倒れたのは俺が勝手しただけだぞ……」
「実家に戻っているとは珍しいですね」
「母と会長が再婚するってことで、昨日食事に行って……」
「なるほど。車で来ているんです。起き上がれるなら下宿まで送りましょうか?」
「お願いします」
竹千代は服を着替えて鞄を持ったところで、思い出す。
「先生、ミシンも持って行って良いですか?」
「自分のですか? 構いませんよ」
車に乗り込む。弥勒が諭した。
「獣兵衛さんが心配していました。まずは一報を入れなさい」
「はい」
竹千代はスマホを取り出す。
『体調は大丈夫なのか?』
「ちょっと頭痛い」
『ならバイトも休め』
『なんか買ってってやろうか?』
もろはが獣兵衛のスマホを奪い取ったらしい。そういえば腹が減っているが、食べ物が欲しい気持ちを抑えて告げる。
「もろはは来ないでくれ」
『なんで』
「なんでも」
通話を切る。弥勒が運転席から尋ねた。
「本当に何もなかったのですか?」
「父さんの死因を思い出したんだぞ。首吊り自殺でした」
「……そうでしたか」
「それで、これからどうすれば良いのかわからないんだぞ。先生、お時間良ければ俺の家で、俺がすること見ててもらえませんか?」
「もちろんです」
此処で見捨てては、教師を名乗る資格は無いというものだ。