第6話:魂の殺人 [4/6]
「こんちわ~」
もろははそう言って屍屋の戸を開いた。
「竹千代居る?」
「今日はまだ来てないぞ」
カウンターに居た獣兵衛が答える。
「あれ? 真面目に授業受けてんの?」
「火曜は部活動推奨の日とかで、もう終わってる筈だがなあ。じゃないと俺もシフト組まないが」
「LINEで居場所訊いたら?」
「さっき送ったが既読が付かん。もろは、お前アパートに様子見に行ってくれるか?」
「良いぜ」
竹千代のアパートのベルを鳴らす。反応は無い。
(合鍵、使うことないだろと思ったけど、もらってて正解だったな)
鍵を開けて中へ。居ない。制服はハンガーにかかっている。紅葉色の着物が椅子の背もたれに残されていて、なんだか嫌な感じがした。
(出かける時いつもこれなのに。衣装部屋に居るのか?)
竹千代は2Kの間取りの一部屋を、親から送られてきた服や、自分で作った服の倉庫兼作業場にしている。
「竹千代?」
しかし此方にも居ない。念の為ハンガーの隙間や、押し入れの中も覗いてみたが、居ない。
「制服があるのにもぬけの殻だと? 事故かもしれんな」
獣兵衛はもろはの報告を聞いて、まずは理玖に通話をかける。
『竹千代? 昨日は家の用事があるって、先に帰ったぜ?』
獣兵衛は通話を切る。少し考えて、今度は昇陽高校の電話番号をタップした。
退勤しようと職員室に出向いた弥勒は、タイミング良く自分の隣で鳴り始めた電話を取った。
「はい、昇陽高校です。ああ、獣兵衛さん。ご無沙汰しております。……狸平君が店に来ない? 狸平君なら、今朝実家の方から『体調不良で休ませる』と連絡がありましたよ」
(珍しいな、バイトの方を無断欠勤なんて)
一言店長にLINEすることもできないほど悪いのか?
「心配ですね。私がこの後見舞いに行こうと思います。本人に会えたら、直接連絡するように言っておきますよ」
弥勒は退勤し、車に乗り込む。
「今日は早く帰って、妻と晩御飯デートでもしようと思ってたんですがね」
だがどうにもきな臭い。いや、あの家には何かある。そんな確信を弥勒が持てるのは、二人の証言者が居るからだ。
『弥勒の旦那~。私は竹千代坊っちゃんが可哀相で仕方なくて……』
八衛門は詳しいことは語らないが、いつもそう言っていた。口止めされているか、漏らせばハチの立場も危ういのだろう。
『盗むとしても、おらは竹千代君がこの色を選ぶとは思えんのじゃ』
旧友の七宝は、竹千代が商品を盗んだとされる店のオーナーだった。そして、おそらく真犯人には誤算だったのだろうが、竹千代と面識があった。
遅くなるかもしれない。弥勒は妻にそう連絡を入れると、車を出した。
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