宇宙混沌
Eyecatch

第6話:魂の殺人 [2/6]

 帰りの車の中で、竹千代の母親が言った。
「今日は家に泊まりなさい」
「アパートまで送ってほしいぞ」
「坊ちゃんのアパートって――」
「駄目よ田貫さん。貴方は使用人じゃないんだから」
(いや、個人的な外食のドライバーにしてる時点で、既に公私混同なんだぞ……)
「明日出勤の時に送ってあげるから、早起きしなさい。それから、また女の子を泊めるようなら、本当に帰ってきてもらうわよ」
「わかりました」
 不服そうに答えたが、社員に甘えるなというのは正論だ。時間も時間だし無理は言わず、竹千代は家族と共に車を降りた。八衛門は狸穴を家まで送るため、再度車を発進させる。
(相変わらず圧迫感がある家なんだぞ)
 折角広いのに、アンティークの調度が所狭しと並べられている所為だ。尤も、これらを売る為に家に出入りしている屍屋[みせ]なら特別に、という理由でバイトの許可を貰ったのだから、あまり文句は言えない。
 大きな振り子時計が二十二時を告げた。
(こんな時計あったっけ?)
 どうせ母がまた蒐集したのだろう。竹千代がぼんやりとそれを見ていると、住み込みの家政夫の鷹丸[タカマル]が、慌てて竹千代を呼びに来る。
「坊っちゃんの部屋、整えてありますので!」
 そのまま引きずられるように部屋へ。
「パジャマも洗ってありますので!」
「ありがとうタカマルさん」
「どこも具合悪くないですよね!?」
 食いつくように両腕を掴まれる。竹千代は驚いて、こくこくと頷くしかできなかった。
「良かった。坊っちゃんが下宿に行って、お抱えのお医者様とは契約を解除したんです。今夜はお薬も何もありませんから、辛くなったら早めに内線で私を呼んでくださいね」
「はい……」
 そういえば、この家に居た頃は自分が病弱だったことを思い出す。
(でも何の病気だったんだっけ?)
 しかし、今は自分のことより、狸穴のことだ。
(再婚したらうちに住むのかな。どの部屋使うんだろ)
 竹千代の部屋を空けろというのなら空けてやる。が、父が使っていた部屋だろうか。
(でも、あそこで父さんが死んだらしいから、鍵かけてずっと開かずにしてるよな……)
 そこまで考えたところで、純粋な好奇心が湧いてきた。
(死因、教えてくれないなら調べるまでだぞ)
 今夜を逃せば、次はいつ帰ってくるか知れない。どうせ縁起が悪いとかで閉め切っているだけだろうし、戸を開けたら部屋が血で真っ赤、等というショッキングな光景が広がったりはしないだろう。
(まだ形見分けしてない父さんの物、勝手に処分されるのも忍びないし、めぼしい物があったら俺にくれってそれとなく言っとこ……)
 竹千代は鞄の中を探る。
(あった)
 もろはが髪を結う時に使っているヘアピン。この前家に忘れていったのを、会ったら返そうと思って鞄に入れておいたのが功を奏した。部屋の鍵は大した仕組みじゃないから、おそらくこれで開けられる。ピンは曲がったら買い直してやれば良い。
 部屋を出ようとした時、内線が鳴る。
『兄さん、お風呂空きました』
「ありがとう」
 ヘアピンを机に置き、まずは風呂へ。温まると眠くなってしまった。
(部屋のことは明日起きたらで良いか……)
 竹千代は布団に包まると、沈むように眠りに落ちた。

闇背負ってるイケメンに目が無い。